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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「なんで謝るんだよ。お似合いの二人だって」
 日焼けした手でマサトの肩をぽんっと叩く。
「さーらーにー! まだ報告があるのよ。黒木さんからどうぞ」
「おほん。実はな、翔太くん。俺とお嬢さん、いや俺とローラは結婚することになったんだ」
「ほえ?」
 ハイ来ました! ぼく、モテ期短すぎ。この時なぜか頭の中が真っ白になり全身の力が抜けて行くのを感じた。
【女心と秋の空】とは昔の人は上手いこと言ったもんだよなあ。などと考えながらも、ローラの僕にだけ見せた人懐っこい甘えた顔、怒った顔、泣き笑いのようなあの顔をもう見れなくなるのかと思うと、胸がきゅんと苦しくそして無性に切なくなるのを感じた。この時きっと僕は、取り返しのつかない事をしたって顔をしてしょげていたのだろう。ヘタしたら、少し半べそまでかいていたのかもしれない。
 ここまで来ないと自分の気持ちが分からないなんて、僕は何てまぬけなんだ。(旅になんか出なければ、こんな悲しい思いをしなくて済んだのかもしれないな)と本当に後悔していた。
 そう――この次の瞬間まで。
 黒木は一歩近づくと僕の肩をなぐさめるように叩いた後、更に追いうちをかけるつもりなのかニヤリと笑いながら耳元でささやく。
「なあんてな! 嘘だよ、この野郎。お嬢さんはおまえだけをずっと待ってたんだぞ。早くハグしてこい」
(やっと自分の気持ちに気づいたのか。鈍いヤツだ)というような顔で黒木が親指を立てて合図すると、黒塗りの車のドアが勢いよく開き、まず形のいい足首が現われた。そして金色の髪をした美しい女性が待ちかねたように車から飛び出してくる。今回はさすがに大型犬とは勘違いしなかったが、まるであの時を再現したかのようだった。何か熱いものが胸からこんこんと湧きあがるのを感じる。
「実はね、あの花の咲き乱れる場所で、あんたを想うローラの涙を見た時に、もう翔太の事あきらめようって決めたんだ。今度こそ、ちゃんと受け止めてあげなさいよ」
 小さな声で言ったあと、樹理は僕の腰をぱあんっと叩く。
 持っていた荷物を急いで全部放り出すと、僕は彼女を迎えるようにいっぱいに腕を広げ足を踏ん張る。さあ、こい!
「しょおおおったああ! おっかえりいいい!」
 前よりもずっと大人びた化粧をしていたが、せっかく塗ったマスカラが涙でいまにも崩れそうだ。そのまま勢いをつけて胸に飛び込んで来る。
「連絡できなくてごめんね。様子を見に飛び出して行きたかったけれど、意地悪なこの黒木が『帰って来るまでほっといてやれ』とか言って行かせてくれなかったの。翔太くんはいま、男を磨いてる最中だから邪魔をしちゃダメだってね。その代り、私も勉強して資格をとったし、けっこうね、頑張ったよ」
 涙を溜めた目でスーツ姿の黒木を軽く睨む。
「では、ボディガードはクビですかね? お嬢さん」
 その瞳は優しく笑っている。目の横の傷跡も一緒になって笑っているようだ。
「確かに翔太くんは前よりも一回り大きくなって帰ってきたみたい。今回は黒木の言うとおりだったわ。何よりも、こうして無事に帰って来てくれたことが一番嬉しいの」
 首を傾げてゆっくりと微笑むと、背中にまわした手に『十三か月分の愛情』を込めながらその顔を深々と僕の胸に埋めた。どこか懐かしいような日なたの匂いが、優しく僕の鼻をかすめていく。胸の奥から何とも言えないような愛おしさが込み上げて来て、今度は僕も物怖じせずにぎゅっと力を込めて抱きしめ返す。
「しばらくはどこにも行かないでね。でも、安心して。あなたの冒険はもう用意してあるから、退屈はしないはずよ」
 彼女特有の悪戯っぽい口調だ。何かイヤな予感がする。
「冒険ってなんだろうなあ。楽しみだよ」
「良かった。あのね、正式なお付き合いをお父様に認めてもらう前に……まずは、あの小うるさいガブリエルに体力で勝たなければいけないみたいなの。『綾小路家を継いでもらう為には、まずは健康な肉体と体力を見せてもらわんといかん』ですって」
「え?」


fin


【愛することにかけては、女性こそ専門家で、男性は永遠に素人である】
三島由紀夫