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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

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『嫌な気配だねえ。それだけ強力な魔物ってことか。これは気合入れて行かないとね』
 突如その言葉が、耳の奥で蘇った。ゼノが言った台詞ではない。誰かがこう語ったのを聞いたのだ。今のゼノと同じように、神殿に入るその時に。
 はっとして立ち止まると、別の台詞が連鎖的に蘇ってきた。
『ま、今回の魔物もオレがきちっとやっつけてやる。お前らの出番がないぐらい派手に暴れてやるぜ!』
 そうだ。そういえば、あの時の自分はそんなことを言っていた。
『で、この前のような間抜けな失敗をやらかしたら今度は助けんからな。付き合いきれん』
 やる気満々なゼノに釘を刺したのはキーネスだ。あの時は一人じゃなかった。仲間と一緒に来た。いつものようにバカなことを言いながら魔物退治に向かったのだ。
 だが、最初の台詞を言ったのは誰だっただろう。ゼノではない。キーネスでもない。あの場にいた誰か。その『誰か』がいたことは知っている。だが思い出せない。誰だろう――
「ゼノ殿! 危ないです!」
 突然思いっきり突き飛ばされて、ゼノはたたらを踏んだ。何かが空を切って飛んでくる音。鋭い悲鳴。はっとして顔をあげると、シリルのすぐ目の前まで樹の蔓のようなものが迫っているところだった。
 だが、蔓がシリルを捉えることはなかった。シリルに触れようとしたその瞬間、火花が爆ぜるような音と共に弾かれたのだ。薄く白煙を上げながら、樹の蔓は後退する。その隙を狙ってゼノは放たれた矢のように飛び出すと、素早く抜刀してシリルを捉える樹の蔓を叩き斬った。あっさりと断ち切られ、断面を晒しながら後退していく蔓。シリルは驚きと恐怖でへたり込んだまま固まっている。
「大丈夫か!? すまねえ、オレがぼうっとしてたから・・・・・・」
「だ、大丈夫です。ちょっと怖かったですけど」
 少し青ざめながらも、気丈にそう言って立ち上がるシリル。幸いなことに怪我はないようで、ゼノは胸をなでおろした。さっきのあれは、ひょっとしてアルベルトがくれた悪魔避けの効果だろうか? 悪魔に取り憑かれないだけだと思っていたが、魔物にも効果覿面らしい。
 それにしても、またシリルに助けられるなんて。油断してしまった自分が情けない。・・・・・・しかし、あの細腕で成人男性を突き飛ばすとは、シリルは意外と腕力があるのかもしれない。
 とか考えて、ほっとしていられたのもつかの間だった。何かが外れるような金属質の音。硬いものがこすれ合う音。そんな音がしたと思った瞬間、轟音と凄まじい衝撃がゼノ達を襲った。粉塵と一緒に小さな石の欠片がびしびしとぶつかってきてものすごく痛い。勢いが収まった頃に粉塵を避けるため閉じていた目を開けると、鼻をつままれても分からないような真っ暗闇が目の前に広がっていた。
「な、何が起きたんだ!? シリル、おまえは大丈夫か!?」
「平気です。怪我もしてません」
 突然の事態に軽くテンパったが、幸いシリルは手の届くところにいたし、無事なようだった。入り口側に立っていたゼノが盾代わりとなったのだろう。無事を確認できたところで、ゼノは手探りで火の消えてしまったカンテラに再び火を灯した。小さな火が暗闇をわずかに打ち破る。粉塵を被ってやや白っぽくなったゼノと、風圧で髪を乱したシリル。暗闇の中照らし出された二人は、入り口のあった方向へ視線を向けた。
「嘘だろ・・・・・・閉じ込められちまった・・・・・・」
 入り口は黒い岩壁で塞がれていて、隙間はもちろん開けられそうな場所も仕掛けも見当たらない。かなり分厚そうだし破るのも無理だろう。こんなトラップがあったなんて、一体誰が作動させたのだろう。
 入り口が閉じられてしまった以上、進む方向は一つしかない。しかし神殿の奥までカンテラの光は届かなくて、何がいるのか、どうなっているのかも分からない。
 ただ、嫌な予感だけはする。ゼノは悪魔こそ見えないが、退治屋としての勘が悪魔や魔物の存在を教えてくれる。この神殿の中はヤバい。間違いなくヤバいものがいる。ただの魔物じゃない、何かが。
「これ、持っててくれ」
 シリルにカンテラを渡して、ゼノは大剣を構えた。何か来る。近付いてくる。
(ちくしょう。シリルがいるってのに!)
 ドジってばかりの自分を殴りたいところだが、そんなことをしている場合ではなさそうだ。
 出られない以上、魔物を倒して奥へ進むしかない。キーネス達と合流できたら――したたか怒られそうだが――シリルを守るのも楽になる。それまでは自分の腕と、あとはアルベルトがくれたお守りの効力を信じるしかない。さっき見たあの効果を見るに、たぶんかなり強力なのだろう。
 冷たい気配が近付いてくる。ゼノはシリルを庇って、一歩前に出た。
 それほど遠くない場所から、魔物の咆哮が聞こえた。



 長い通路はどこまでも続いている。
 ヒカリゴケが仄かに通路を照らしていて、これとランプの明かりがあれば視野の確保には困らない。ヒカリゴケの淡い光とランプの揺れる明かりを浴びながら、リゼ達はひたすら長い階段を上がっていく。
「上まではどのくらいあるのかしら」
 なんとなく、リゼはそう呟いた。ティリーの魔術で崩れた床から落下した時、かなり長い時間落ちていたように思う。とすれば上までの距離はなかなかなもので、この緩やかな階段を悠長に上がっていては到着するのに相当な時間を要するだろう。
「速くティリーを見つけられるといいんだが。移動しているとやっかいだな」
 心配そうにアルベルトが呟いた。確かに、ティリーは身動きが取れないわけではないだろうから、最後に見た場所にいるとは限らない。どこかに移動していたら探し出すのは難しい。そもそも自分達の現在位置もよく分かっていないから、元の場所に戻れるかどうかも怪しいのだが。
 それはともかくとして、
「悪魔祓い師だというだけで攻撃されたのに呑気なものね。見つけられたとしても前と同じように魔術を仕掛けられるかもしれないわよ」
 自分の心配はしなくていいのかと、リゼは少しばかり呆れてアルベルトを見た。ダチュラの毒が新しい記憶から消していくなら、ティリーはすでにリゼ達のことを忘れ去っている可能性はある。だがもし、「悪魔祓い師が憎い」という記憶が残っていたら? いつからそう思っているのかは知らないが、なにせティリーは魔術師なのだ。
「それは・・・・・・その時は仕方がない。できるだけ、君には被害が及ばないようにするよ」
 どうにかしてエゼールだけは飲ませないとな、とアルベルトは考え込む。そういう意味で言ったのではないのだがと思いつつも、リゼはそれ以上言及しないことにした。
「・・・・・・まあいいわ。それよりさっき見たあの幻の森。あれ、なんだと思う」
 尋ねると、アルベルトは顔を上げて、
「何、というのは、どうしてあんな幻があったのかということか?」
 と訊き返す。リゼはそれもあるけど、と答えつつ、先程から考えていた一つの考えを口にした。
「あの幻の森を創り出した奴がいるはずよ。あんなもの、勝手に出来たりしないわ」