小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

INDEX|22ページ/71ページ|

次のページ前のページ
 

 ティリーの話が終わった後、次に口を開いたのはキーネスだった。彼はゼノの方を見て、やや呆れたように言った。
「ローゼンと二人して道に迷ったか? 方向感覚までなくしたら、体力しか取り柄がなくなるぞ」
「“体力しか”はひでーだろ! 他にも取り柄はあるっつーの。――最初は街道を歩いてたんだけど、途中でシリルがいなくなってさ。探したら森に入っていくところだったんだ」
 ゼノが言うには、そのまま森に入って姿を消してしまったので、二人で必死に捜索したらしい。幸いにもシリルはすぐに見つかり、連れ戻そうとしたのだが、
「わたくしは反対したのに、ゼノが自信満々で進んだせいで道に迷った上に、いきなり現れた猪の大群に追いかけまわされてはぐれてしまったんですわ」
 ティリーがそう言うと、キーネスがやっぱりそうか・・・と言いたげな顔でゼノを見る。旗色がすっかり悪くなってしまったので、ゼノは慌てて弁明し始めた。
「いや違うって! いつもは方向感覚に自信があるから、それを信じて行ったら今日に限って不調だっただけだって!」
 本人は必死だがあまり言い訳になっていない。そんな親友の様子をしばらくみた後、キーネスはため息をつくと、リゼの方に視線を向けて言った。
「ランフォード。それとスターレン。あんた達に頼みがある」
「何よ」
「あんたを探してたのはクロウのことだけじゃない。もう一つ手伝って欲しいことがある。魔物退治だ。場所は人喰いの森の奥。そこに大きな魔物の巣がある」
 人喰いの森と言うと、この間言っていた立ち入った者は誰一人帰ってこないという魔の森のことか。ここからだと北の方角、禁忌の森の奥になる。
「最近、この辺りで多くの旅人が姿を消している。『人喰いの森』に喰われて、だ。その原因は森の奥の魔物が近くの人間を呼んでいるせいらしい」
「魔物が人間を呼ぶっていうの?」
「ああ。正確には森の奥を目指すのは悪魔に取り憑かれたせいではないかと考えている。魔物の巣だ。悪魔も大量にいるんだろうな」
 ということは、シリルが森に入っていったのは人喰いの森の悪魔に引き寄せられたせいかもしれない。“憑依体質(ヴァス)”である彼女なら悪魔の影響を受けて当然だ。
「このままコノラトにまで被害が広まっては困ると調査と魔物退治の要請が来てるんだが、悪魔が大量にいるのでは対処しきれない。その点、救世主(あんた)がいれば取り憑かれても対処できる」
 要するに仕事の手伝いをしてくれということか。まあそれは別にかまわない。人喰いの森のある場所はシリルに取り憑いていた悪魔が飛び去って行った方角でもあるし、魔物の巣なら叩き潰しておくに越したことはない。
「分かった。行くわ」
「俺も行く」
「わたくしも行かせていただきますわよ。魔物退治なら人出は多い方が良いでしょう?」
 アルベルトとティリーも手をあげる。それを見たゼノは拳を握り、張り切った様子で立ち上がった。
「よぉしじゃあ出発は明日の朝だな。どんな魔物がいようと、オレ達で一網打尽にしてやろうぜ」
「お前は付いて来るな」
「って、なんだよキーネス! オレの本業は魔物退治屋だぜ? 退治屋が魔物退治しなくてどうするんだよ」
 口をとがらせて反論するゼノに、キーネスは呆れた表情をする。
「阿呆。お前まで魔物退治に出たら誰がクロウの護衛をするんだ? まさか悪魔に取り憑かれやすいそいつを連れて、魔物の巣まで行くわけにはいかんだろうが」
「あ、そうか・・・・・・じゃあ一度コノラトに行ってシリルを誰かに預けてくるよ。あそこには退治屋同業者組合(ギルド)があるしな。巣なら一人でも人手が多い方が良いだろ?」
「いや、そいつ一人放り出すのはまずいだろう。それに、人喰いの森から可能な限り離れた方が良い。悪魔の巣がある以上、この辺りにいる限り悪魔に取り憑かれる可能性は高いんだからな」
 ゼノはしばし沈黙したが、やがて納得したらしい。わかったと頷くと、その場に座り直した。
「その魔物の巣はどれぐらいの規模か判明しているのか?」
 質問したのはアルベルトである。それに対し、キーネスは巣の大きさ自体は大したものじゃないと答えた。
「ただ魔物が凶悪なだけだ。だがそれも、“救世主”がいれば問題ないだろう。昼の魔物との戦いを見させてもらったが、あんた達の実力なら負けることはないだろうと思う」
「そうか。しかし・・・・・・」
 アルベルトは心配事でもあるのか慎重な姿勢を見せたが、リゼにしてみれば、相手がどんな奴だろうと所詮魔物。人に憑く悪魔に比べれば、悪魔が取り憑いた動物など大した相手ではない。悪魔だらけというのは厄介だが、全部まとめて浄化してやるつもりだった。だが、アルベルトが何かを危惧しているかのように考え込むので、怪訝に思って尋ねた。
「何か問題があるの?」
「悪魔祓いのあの時、人喰いの森の方を視たら、凄まじい量の悪魔が集まっているのが視えたからな。あの数を倒すのは・・・・・・」
「別に何体いようと私が全部滅ぼしてやるわよ」
「いや、君がそう言うと思ったから心配しているんだが」
「何が心配なのよ」
「メリエ・リドスで大勢の悪魔憑きを治した時、体調が悪そうだったしあの規模の悪魔祓いは無茶だったかと言っていたじゃないか」
「あれはあの前にも悪魔祓いをしていたし、一晩中起きていて休んでいなかったせいよ。体調が万全なら問題ないわ」
 それに今回は核となる魔物がいるのだから、そいつを叩けば悪魔の数はある程度減るだろう。そこをうまく叩いて悪魔を浄化しつくせばいい。いつもいつも、悪魔を力任せに消している訳ではないのだ。
「止めたって無駄よ」
「止めはしないよ。ただ、絶対無茶なことをするだろう」
「考えなしに突っ込むほど私は馬鹿じゃない」
 心配はいらないというリゼと、そうはいっても、と返すアルベルト。そんな二人のやり取りを見ていたゼノがぽつりと言った。
「こいつら仲良いんだな」
「・・・・・・というか、アルベルトったらどんどんリゼの保護者になっていませんこと?」
 少しばかり呆れた様子で、ティリーはそう呟いたのだった。