本当にあったゾッとする話6 -ポルターガイスト-
『金縛り』を初体験したのと同じ頃だったと思う。
私はもう一つの、初めての異様な体験をした。
前作でも書いたように、私は20台前半の一時期を、都内の安アパートで一人暮らしをしていた。
部屋は和室の6畳間と狭いキッチン、トイレだけで、風呂は無かった。アパートから歩いて2・3分のところに風呂屋があって、いつもそこを利用していた。
アパートは木造2階建てでかなり古く、1階・2階とも4部屋ずつで合計8部屋が一棟を構成しており、同じ敷地内に棟が4つあった。
一応、下町と呼ばれるエリアであったが、人情に篤いと聞いていた下町は、実際は身内に対する人情は篤くても、余所者に対しては非常に閉鎖的で冷淡なエリアだった。
私はそのぼろアパートの1階の部屋で暮らしていた。
そんなある日の、夜中だった。
布団にくるまって寝ていた私は、何か異様な雰囲気で目を覚ました。
いったいこの雰囲気はなんだろうと、布団から眼だけ出して、真っ暗な部屋の中をきょろきょろと見回した。
具体的にどうと言えないが、いつもと何かが違っていた。そうしているうちに、異様な雰囲気を前触れとして突然それは始まった。
いきなり、部屋全体が揺れだしたのだ。
木材がきしむ音に加えて、蛍光灯が激しく揺れ、天井から埃が舞い落ちて来る。おそらく、このアパートそのものが激しい揺れに襲われているのだろう。
私は地震かと思い、布団をはねのけて上半身を起こした。
しかし、この地震はなにかおかしかった。自分が幾度として経験してきた地震とは、決定的に違っているところがあった。
いつまでたっても揺れが収まらない。しかも揺れ方が、実にリズミカルだった。
同じリズムでずっと揺れていたかと思うと、一定時間ごとに小休止が入り、また元のリズムで揺れ始める。
私は布団の上で固まったまま、成り行きを見守った。
そのうちに、どこからか、女の呻き声が聞こえて来た。
私は初めて動揺した。
―― これが、いわゆるポルターガイストっていうやつなのか!?
―― ポルターガイストって、本当にあるのか!?
私が初めて心霊現象を信じてしまいそうになった瞬間だった。
すると、続いて男の呻き声も聞こえ始めた。
―― うん? なんか様子が変だぞ??
男の声が聞こえ始めたあたりから、私は冷静さを取戻しつつあった。
やがて、男と女の呻き声は、会話へと変わった。この時点で、私ははっきりと事態を悟った。
それは、真上の部屋の住人が、部屋に女を連れ込んで、こんな夜更けに男女の営みを始めたのだった。
ポルターガイストの正体は、2階の住人だった。
古いぼろアパートは、少しの揺れにも反応し、建物全体が振動するのだった。
それを悟った次の瞬間、私は別のことに思い当たって、激しく動揺した。
私も、何度か彼女をこの部屋に連れ込んで、同じことをしていたのだ。
―― 俺もポルターガイストになって、アパート全体に自分がしていることを、教えていたんだ!!
それは、別の意味で、本当にぞっとした瞬間だった。
私は部屋の中で布団の上に座り込んだまま、全身がかっと燃えるような恥ずかしさに襲われ、いつもでも悶々として寝付けなかった。
作品名:本当にあったゾッとする話6 -ポルターガイスト- 作家名:sirius2014