烈戦記
『僕は大丈夫だよ。父さんもあまり無理はしないでね』
ぎこちない笑顔でそう答えた。
そしてそれを聞いた豪統様は豪帯様を力一杯抱きしめていた。
抱きしめられた豪帯様は今にも泣いてしまいそうだった。
後の事は兵士達に任せて私は内宮を後にした。
兵舎へ向かう為、政庁の出口へ向かう廊下で私はあの二人の親子の事を考えながら自分の行いについて振り返る。
…私の行いは正しかったのだろうか。
洋班という男は親の権力のまかり通る環境で生きてきた人間だ。
だからこそ私はその権力が絶対ではないという事をわからせる為に虚勢を張っていた。
でなければ、この先洋班がどれだけこの関に居座るかは知らないがそれまでにきっとあの二人は洋班になじられて辛い思いをするだろう。
豪帯様に限っては病んでしまわれかねない。
今は充分に私を脅威であると思い知らせた分、私がいる内は洋班も容易にあの二人に手を出す事はできないだろう。
その代わりこの一件が終わった後、私はこの関にはいられないだろう。
私は主とその子を守る為ならそれでも良いと思っていた。
…だが最後のあの二人を見て考えが揺れた。
彼らには側で支えになる人間が必要だ。
ではもし、私がいなくなってしまったらいったい誰が彼ら親子を支えるのか?
そう考えると私はやり過ぎたのかもしれない。
今となってはもう取り返しはつかない。
だからこそ今からはそれに嘆くのではなく、できるだけ長く彼らの側にいる事を考えよう。
その間に信用できる人間を見つけるもよし、部下を育てるもよし…。
私にはまだやらねばならない事が沢山あるようだ。
政庁の出口に立った時、外の明るさに目を奪われる。
あぁ、こんな時でも空には雲一つもかからんぬものか。
だが、逆にその晴れ渡る空が嵐の前の静けさのような気がしてしまう。
どうかこのまま何も起きぬ事を…ただただ願うばかりである。
『…まずは賄賂か』
私は自らの足を自室に向かわせた。