人形の心*2-1
思わずダルドールは叫んだ。通行人の顔が、一瞬こちらに向く。
「……落ち着いて。今の話は、一旦忘れてちょうだい」
忘れられるわけがない。
だが、反論を言う暇もあたえず、女性はぺらぺらと喋り始めた。
「これは、あなたの友達を救うためにやっていることなの。今日の夜十時に女の子を連れて駅まで来て。そしてこのチケットでグラマーに向かいなさい」
そう言うと同時に、ダルドールの手に無理やりチケットを握らせた。
グラマーというのは魔術の研究で有名な都市だった。城下町からは少し離れた場所にある。
「そして、研究施設にいるソルシェという人物を尋ねなさい。意味が分からないでしょうけど、お願い。ソルシェから話を聞いたら、きっと分かってもらえると思うから。それに、もしかすればもう今夜には――」
そこまで言って、突然女性の言葉が止まった。
「もう時間がないみたいね。――私には、あなたしか頼れる人がいないの。お願い。絶対に、彼女を守ってちょうだい」
早口にそうまくしたてると、女性はどこかへ走り去って行く。
握らさせられたチケットを見ながら、ダルドールはしばらくその場にぽかんと立ち続けていた。