魔獣物語〈序章〉
ダンは抱えていたカナの体を地面に横たえ、カナを庇うように魔人の前に立ちはだかった。
自分ひとりでやるしかない。
だが、ダンも先程の回復魔法で、魔法力の大部分を消費してしまった。余力はほとんど残っていない。
しかし、魔人も既に相当、消耗している。勝機はあるはずだ。
よろめきながら立ち上がった魔人は、ふらついた足取りで、一歩、また一歩と近づいてくる。
一撃で仕留めなければならない。
ダンには、カナのような戦士としての動きはとれないからだ。
相手の攻撃を躱す事など出来ないのだ。接近戦に持ち込まれれば、魔術師は一巻の終わりである。
やるなら、魔人との距離が開いている今しかない。
ダンは、自分が使える最大級の攻撃魔法の準備をしていた。
実戦では使った事のない魔法だが、今は敵に隙を作る事だけを目的とした小手先の魔法では、どうにもならない。
魔法とはイマジネーションである。思い描いたイメージに、魔法力を付加させる事で、それは現実のものとなる。イメージが鮮明であればあるほど、魔法は強く発動される。
『燃え盛る炎。全身を焼き尽くす激しい業火。』
ダンは‘炎’を強くイメージし、残された魔法力を振り絞って、それを一点に集中させた。
「これで終わりだ!」
ダンは集中させた魔法力を、魔人に向けて一気に解放した。
魔人はそれを避けようとすら、しなかった。
ゴォォ、という爆音とともに火柱があがり、一瞬にして魔人の体は炎に包まれた。
魔法は成功したのである。