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魔獣物語〈序章〉

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空が赤く燃えていた。
 妙に美しく、神秘的な光景である。
 しかし、それは夕焼けではない。朝焼けでもない。今の時刻は深夜なのだから。
 村を焼く炎が、空を赤く照らしているのである。

 この場にいるのは、女子供と年寄りばかり。着の身着のまま、村から逃げ出してきた。
村の男達、つまり彼女らの夫や父や息子は、妻や子や年老いた親を村から脱出させるため、武器を取り、突如、村に襲い掛かった醜悪な敵と戦っている。
 突然の襲撃ではあったが、それでも男達が負けるとは、彼女らは考えていなかった。
村の男達は、長年の自治の間、ずっとこの村を自警してきた。武器の扱いにも、戦闘にも、慣れている。しかも、彼らを率いる2人の男は、このような小さな村に埋もれているのが不思議なくらい、有能な人物だった。

 同じ人間では右に出る者はいないと囁かれる最強の戦士。そして、‘パスツレラの大賢者’と呼ばれる魔術師。
 どの国の騎士団長でも、どの国の宰相でも、勤められる男達である。
 伝説にさえなっているこの2人の名を知らぬ者は珍しいが、この2人がこの村で暮らしている事を知る者は、村の外にはほとんどいない。
 この2人の力によって、村は幾度もの危機を乗り越えてきた。この2人の男の敗北など、想像する事さえ出来なかった。

 しかし、それは先刻までの話である。
 女子供と年寄り達は、小高い丘の上から、赤い空を、焼け落ちる村を、絶望の思いで見つめていた。

作品名:魔獣物語〈序章〉 作家名:ひよく