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金平糖~恋愛短編集~

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ex-boyfriend





「奈月さーん、このメールどう思いますか?」
「んー、良い感じじゃん。相良君絶対みきちゃんのこと気にいってるよー。」
「だと…いいんですけど。もうほんと奈月さん頼りになるー!奈月さんにメール考えてもらうようになってから相良さんの反応良くなったって思うんですよー!」
「いやいや、みきちゃんの努力でしょ。」


年齢差というのは自分の年によって全然感じ方が違う。
高3の時、高1なんてガキにしか思えないとクラスの男子たちは言ってたけど、大学に入れば3男は華の1女と彼女たちをチヤホヤする。一方タメのこちらは瀕死の3女なんて言うそうで…。
相良とは大学1年の夏から1年半今年の春休みまで付き合っていた。
もちろんこの春入学してきたみきちゃんがそれを知る訳はないし(しかし薄々感づかれている気はしなくもない)若くてかわいくて気のきくみきちゃんならむしろ相良には勿体ない位だと本気で思う。
それにしても…若いというのはホントに素晴らしい…好きだからというだけであんなに頑張れるとは…うん、ホントにすごい。

相良という男はそこそこイケメンで頭もいいしテニスもうまいし…まぁもてるのかもしれない。
私からすればそんな彼の表の部分何の面白みもないのだけど。
だって相良の本性なんてタダの自己中などSだ。



「なつっ。」
「何?」
「何ってひどくない?一緒に帰ろうよ。」

サークルの練習が終わった後、珍しく(というか別れて初めて?)相良からのお誘い。
一体どういう風の吹き回しやら…ただ一つだけわかっていることがある。
この男は無駄なことはしない。



帰り道は同じ方向。今日のストローク練はいつもより安定してただとか今度のトーナメントのことだとか他愛もない話をしていたら相良の最寄り駅に着いた。

「相良君この駅でしょ。」
「そうだけど送ってくよ。」
「…いいよ。」
「俺が送りたいの。」

彼がそう言ったところでちょうどドアが閉まる。

「……何が目的。」
「お前どんだけ俺のこと嫌いなの?!」

そんな風に悲しそうな顔したって私は揺れない。

「別に嫌いじゃないけど送って貰う義理もないし、相良がそんなボランティア精神旺盛だとも思えない。」
「ボランティアって…!」

あー…、でも、この顔は好きだったなー。
いつも微笑むことしかしない作り物の笑顔を貼り付けている相良が爆笑する顔。
私だけが見れるんだと思ったこともあった。

「じゃあさー、なつ…単刀直入に言うけど俺と寄り戻して。」


………。
流石に予想外だった。

まずここは電車の中だ。
ガラガラと言う訳でもなくむしろ帰宅ラッシュで混んでいる。
電車が揺れるたびに肩がぶつかっていた隣のおじさんは気まずそうに目をそらす。
吊革につかまる相良の正面に座ってた女子高生はまるで自分が言われたかのように少し顔を赤らめて瞬きをする。
私だって一瞬思考回路がとまった。
恐らく今一番この車両で冷静なのは超爆弾発言を投下した相良本人であろう。

「あんた…今なんて言った?」
「いや、だから寄り戻してって。」

…頭が痛い。
別れ話を切り出したのは私からだ。
つまり相良はこの平凡な女に振られた訳だ。
それを寄り戻してって。
戻そうでも戻してくださいでもなく、何のためらいもなく奴は思い切り上から戻してと言ってきた。

「…拒否権は?」
「ないね。」
「…みきちゃんはどーすんの?」
「あー、それね…。人使って口説くなんてなつもやるねー。」
「はっ?私は相談に乗ってただけで…!」
「でもなつの文章だった…。メール楽しかったよ。俺はみきちゃんじゃなくてなつとメールしてて、なつとのやりとりを気に入った。」
「…馬っ鹿じゃない。」
「なつは俺といなきゃだめだよ。」
「誰が決めたの。」
「俺だけど。」
「勝手すぎる。」
「けどなつも楽しんでた。そんなことないとは言わせない。」
「…。」



世の中では華の1女、瀕死の3女というらしい。


「私瀕死らしいんだけど…。」

相良は一瞬目を丸くしてその後私の大好きな笑顔で言った。

「それなら俺の手助けが必要だね、なおさら。」

電車が私の駅のホームへと滑り込む。

「送ってくよ。」

私は今度は断らなかった。


*END*

作品名:金平糖~恋愛短編集~ 作家名:暁つばさ