気まぐれ、神様、文芸同好会
次の日、昼休みが待ち遠しかった。昼の授業が終わり、昼休みになるとすぐに屋上に向かったが、石口さんのほうが先であった。
「で、重大発表ってのは何だ?」
俺は訝しむような声で聞く。
「私は、あなたの母親」
「は?」
言っている意味がわからない。
「転生というやつかな、詳しくはここに生きている人には言えない。生を実感させる場所に連れて行ってくれっていったのは、そうやって言って千秋にかまってもらって
近くで見たかったからで深い意味は無いよ。いや本当見ない間に大きくなったね。お父さんは元気?」
「悪い冗談はやめろ」
「それはじきにわかる。もうここにはいられないみたいだ。やはり詳しくは言えないのだが、もうすぐ消えてしまう。ああ、この世の果てとか人間の真実というのは
その人の中にあるんだと思う。長く生きてないからよくわからないけど、千秋なら見つけられるだろう」
「消えるというのは遠くに行くというか、失踪してしまうということ?」
「いやそうじゃない、石口さんという存在が最初から無いことになる。皆の記憶からも消えるだろう。千秋の記憶から消えるかどうかはわからない」
「いや、しかし信じろという方が無理がある」
そういった刹那、目の前に光が発生し、石口さんが消えてしまった。
嫌な予感がし、教室に走って戻り、連次の肩を掴んで聞く。
「文芸同好会は何人いる?」
「何人って・・・三人しかいないだろ。俺と千秋と有川。何を言っているんだ」
「え・・・?石口さんは?」
「誰だそいつ・・・夢でも見てたのか?ん?」
目の前が真っ暗になった。そう、あの話は本当だった。
そして放課後。国語科準備室へ向かうが石口さんがいないので妙な気分だ。大抵石口さんが鍵の閉まった扉の前で座って待ってるパターンだった。よく考えてみると
有川さんと二人だけなのは初めてで妙な汗をかく。
扉の鍵は閉まっていた。扉の前で座って待つ。二三分で鍵を持った部長、有川さんが来た。
「鍵持ってきたよ。待った?」
「いや、ついさっき俺は来た。ひとつ聞いていいか?文芸部は俺と連次と有川さんだけだったかな?」
そうすると有川さんはクスクスと笑い出す。
「なに大まじめにおかしな事聞いてんのかな。元から三人でしょう」
「ああそうだったかな・・・ははは」
そうしてどちらともなく中に入る。適当に俺達は座り、俺は携帯ゲーム機を取り出して画面に向かう。有川さんは本を読んでいる。
二人きりだ。俺の記憶では三人だったがもう石口さん、いや母親のことは有川さんも記憶していない。妙な気分だ。
「いつも俺は携帯ゲーム機をいじってた?」
「うん。どうしたの今日は?記憶が飛んだの?」
「いや、なんでもない」
やっぱり石口さん、いや母親の存在が抜けただけで後は変わってないんだ。少し安心した。外からは運動部の歓声が聞こえる。そういうところとは壁を隔てたかのように
俺達二人は無関係だった。それだからこそ良いとも言える。
「あの」
有川さんは少し斜め下を見ながら言い出した。なにか考えがあるのか。
「前文芸同好会畳もうとか相談した時のこと覚えてる?」
「ああ」
「そのとき人間は結局自己満足に帰結するって話してくれたよね」
「うん」
「私的な自己満足というのは別にあるって気づいたの」
「それは文芸同好会を創設したということの延長線上?もっと勢力を増やしたいとか?」
「いいえ」
「姉を超えたいという考え?」
「いいえ」
「なんだろうな」
俺にはわからない。
「結局君ともっともっと仲良くなりたいってところに帰結するんだ」
「それは・・・その?」
「遠回しな告白ということ。返事は・・・どうなのかな?」
向こうから来ただけに、俺は迷わなかった。
「よろしく」
「うんっ。あと、今日をもって文芸同好会は解散」
「え?」
「聞こえなかったの?今日で解散。かっこ良く言うと発展的解散」
「何で?」
「だって二人しかいないし、入る見込みもないし、君と仲良くなるというところに私の自己満足は帰結するから。同好会を続ける意味が無い。それに、私と杉原くんが
そういうので、他に部員が加入してくるのはなんか嫌」
「部長がそう言うなら仕方ないね」
俺が告白を了承した以上、連次はもう来ない気がしていた。しかしながら俺のどこを気に入ったか不思議でたまらない。そのうち有川さんに聞きたいと思う。
「気まぐれに文芸同好会作って、気まぐれに解散したね」
「気まぐれじゃなくてその時は本気だったの」
彼女は必死に言っているが、俺からすれば気まぐれだな。でもそれは周りから見るとそうなのであって、本人は多分本気なんだろうな。
「もう今日はおしまい。解散解散。駅前のゲーセンに行こう。音ゲー得意なんだよ」
「なかなかマニアックだなぁ・・・」
こうして俺の短くも忘れられない文芸同好会活動は終わった。
作品名:気まぐれ、神様、文芸同好会 作家名:白にんじん