気まぐれ、神様、文芸同好会
なぜ屋上で携帯ゲーム機をいじっているか。
一時間目の世界史が退屈でサボっているからだ。ほら、暗記物って教科書とかああおいうの
読んで問題演習してさ自分なりに覚えたら点取れるでしょ。
サボることの功罪は心の底に置いておく。
クラスにはそこそこ馴染んでいない。同じ中学出身のやつはいるがあまり知らない
し、中学は帰宅部だから知り合いに乏しい。必然的に他の中学出身者が友人候補の中での比率
が高まる。まぁ知らない奴ばっかりだ。
自分で言うのもなんだが、自分の中での「友人」とはなんだという感覚に乏しいのだ。
自分の中学で帰宅部を選ぶのはほんの僅かであった。理由は単純に入りたい、いや入れる部活がなかった
からだ。
運動はとにかく嫌いで走れば一番下、美術で絵を書けば幼稚園児から進化していないような絵、音楽
で笛を吹けばおかしな音しかならない。となると自分の中学では該当する部活はなかった。かといって新し
く作ろうと働きかける気概、というか部活にかける思いもなかった。
ああ、クラスに連次がいる。数少ない中学からの友人といえる人の一人だ。スポーツも出来て頭もそこそこ
だ。ただ、俺よりは「頭」に関しては下だ。その点だけに関しては自分の中で優位を感じていた。でも自分の
ように部活も運動もできない人間とスポーツも出来る好青年?を勉学という一面だけで比較し、その一面だけ
で上だといってもそこまですごいことなのかという疑問も持つ。特化しているのか全方位に向けて伸びているのか
という違い。でも自分の頭だって世界を探せば自分よりすごい人間なんて掃いて捨てるほどいるのだ。ただ
この高校では新入生総代をしただけというだけで、お山の大将的だ。
連次に関しては、いや世界に対して優位さと劣等さを等しく感じていた。それは自分というものを過大なものと
考えているのかもしれない。
屋上の扉が突然に音を立てる。正直扉の横の壁にもたれかかっていたので音に驚いた。一瞬教師かと思ったが、
屋上の柵へ向かう後ろ姿からは長く綺麗な髪に小柄な背、それに女子のセーラー服。生徒か。何年生なんだろう。
ただ憂いげというか、優しさという名の「弱さ」みたいなものを感じた。大事にしたいのではなく、壊したいとす
ら感じさせる。こんなことを初見の相手に思うのも変なんだけど。
その子は柵の方へ向かっていっている、内心空でも見上げるロマンチックな場面かと思った。だとしたら俺という存在
が大変余計だし、なんかこっちがいたたまれなくなってくる。そんな妄想的な心配を他所に、彼女は柵を両手で持って
半ば身を乗り出して目線を下に地面を見つめていた。
ものすごく何とも言えない空気で、シュールというべきか。手で柵をしっかり持っているあたり、死ぬ危険はないと思うが
、一応声をかけておく。第一発見者は嫌である。
「何やって・・・」
そうすると、あっけらかんとした様子で
「生を実感したいから」
「ああ、そうなんだ。って落ちたら危ないやろ。」
当然ながら少し引き気味で声がうわずっている、こんな答えが返ってくるとは思わなかった。不思議な人なのだろうか。
と同時に面白いとすら思った。こんな人なかなか居ない、いやもっともそこらにいてもらっても困るが。
「危ねえコトしてんじゃねえよ。世界は優しいところがあるんだよ」
「は?」
ぽかんとして一瞬空気が白くなったが、構わずに続けてしまう。面白いことと妙なことには首を突っ込みたいタチなんだ。
「死のうと思って高いところから落ちたら死なせてくれるっていうところ」
彼女は我が意を得たりという顔をした。
「面白い喩え話ありがとう。新入生総代さん」
「その名で呼ぶな、面白く無いな」
「でもさ、屋上でサボるのは私位だと思ってたのに、同じ考えの人がいるとはね」
「大体屋上でサボるなんてベタな考えなんだよ。先駆者になりたいならもうちょっとひねれよ」
どこに着地し、どういう方向にいけばいいのかよくわからない会話だった。ただ、この瞬間に彼女に自分と似たもの、すなわち
自分というものを世界に対して過大に考えているフシを感はじめた。
彼女は柵にもたれかかりこっちを向いて話し始めた。小柄で憂いげがある顔が特徴的ですらあった。
「なんで新入生総代さん、いや君と呼ぼうか、はサボってるの?一匹狼気取りなのかい?それとも単なる不真面目なのかい
?いや、授業がつまんないのかい?」
「授業が退屈だからだ。それ以外にはない」
「クラスから浮いてそうだね、かわいそうに」
「人のことは言えたものかい?」
「さぁ?どうだかね」
ここでただひとつの疑問を彼女にぶつけてみる
「なぜわざわざ屋上から下をのぞいて「生を実感」する必要があるんだい?人間、意識や感情があるかぎり生をいやでも実感しているん
じゃないか?」
「そんなんじゃ足りないんだ」
なんでそんなものを欲しがるのかわからないけど、これ以上突っ込んではいけないのは鈍い自分でもよく分かる。でも、考えるより
先に口が動いてしまった。
もう「後戻り」は出来ないのだ。
「考え過ぎなんだよ、自分を世界に対して大き・・・」
彼女は少し眼光が鋭くなって不機嫌な顔をして一言言った。
「世界はいつだって不条理だよ」
「ああそうだよ。世界というやつはいつも不条理で押しつぶしてくるんだ。それでも仕方がないだろう、どうにもならない。だから人間は
思いっきり抵抗するんだ。それはかなわないかもしれないけど」
「授業のサボりもそれの一つかい?」
「ハハッ、どうかな。微妙だな。世界に対する劣等感の裏返しかもしれないし、単にくだらない反抗かもしれない」
「くだらないな」
彼女は吐き捨てるように言った。確かにくだらない反抗というか小爆発みたいなものかもしれないけど。自分対世界の構図になってしまっている。
それは青臭いのかもしれないけど、そんな思いを抱くことは自意識過剰すぎるのかもしれないけど。
なぜ彼女が「生を実感」する必要があるのか疑問だが、多分それは彼女の根幹に係る話な気がして触れられるわけがない、ましてや初対面だ
個人的にはとても興味があるけど。俺は割と顔に出るたちなのでこんなことを考えているとバレそうで怖い。毎日を退屈に思っているからだろうか?
それとも死にたいほど悩んでいるけど必死で踏みとどまっているからとか? どちらにしても本人に聞く訳にはいかないしわからないのだが。
「知りたい?」
不意に彼女の声が耳に届く。ちょうど光がうまい具合に差し、彼女の長い髪が艶やかさを放ち、首を少し傾け、イタズラっぽく少し何かに興味を
持ったような笑みを浮かべていた。
「また会うことがあれば次は」
そう言ったが同時、また屋上の扉が開き、人間が入ってきた。全く今日は屋上へ来る人間が多いものだ。ここはサボりスポットとして有名なのだろうか、
そうなると別の場所を開拓しないといけないではないかだとすると困ったものだ。
「おっ、千秋、やっぱりここにいたのかい・・・あっ、邪魔したかな」
その声の主や連次。なにかとんでもない誤解をされているような気がする。何か言おうとすると、彼女が口を開いた
一時間目の世界史が退屈でサボっているからだ。ほら、暗記物って教科書とかああおいうの
読んで問題演習してさ自分なりに覚えたら点取れるでしょ。
サボることの功罪は心の底に置いておく。
クラスにはそこそこ馴染んでいない。同じ中学出身のやつはいるがあまり知らない
し、中学は帰宅部だから知り合いに乏しい。必然的に他の中学出身者が友人候補の中での比率
が高まる。まぁ知らない奴ばっかりだ。
自分で言うのもなんだが、自分の中での「友人」とはなんだという感覚に乏しいのだ。
自分の中学で帰宅部を選ぶのはほんの僅かであった。理由は単純に入りたい、いや入れる部活がなかった
からだ。
運動はとにかく嫌いで走れば一番下、美術で絵を書けば幼稚園児から進化していないような絵、音楽
で笛を吹けばおかしな音しかならない。となると自分の中学では該当する部活はなかった。かといって新し
く作ろうと働きかける気概、というか部活にかける思いもなかった。
ああ、クラスに連次がいる。数少ない中学からの友人といえる人の一人だ。スポーツも出来て頭もそこそこ
だ。ただ、俺よりは「頭」に関しては下だ。その点だけに関しては自分の中で優位を感じていた。でも自分の
ように部活も運動もできない人間とスポーツも出来る好青年?を勉学という一面だけで比較し、その一面だけ
で上だといってもそこまですごいことなのかという疑問も持つ。特化しているのか全方位に向けて伸びているのか
という違い。でも自分の頭だって世界を探せば自分よりすごい人間なんて掃いて捨てるほどいるのだ。ただ
この高校では新入生総代をしただけというだけで、お山の大将的だ。
連次に関しては、いや世界に対して優位さと劣等さを等しく感じていた。それは自分というものを過大なものと
考えているのかもしれない。
屋上の扉が突然に音を立てる。正直扉の横の壁にもたれかかっていたので音に驚いた。一瞬教師かと思ったが、
屋上の柵へ向かう後ろ姿からは長く綺麗な髪に小柄な背、それに女子のセーラー服。生徒か。何年生なんだろう。
ただ憂いげというか、優しさという名の「弱さ」みたいなものを感じた。大事にしたいのではなく、壊したいとす
ら感じさせる。こんなことを初見の相手に思うのも変なんだけど。
その子は柵の方へ向かっていっている、内心空でも見上げるロマンチックな場面かと思った。だとしたら俺という存在
が大変余計だし、なんかこっちがいたたまれなくなってくる。そんな妄想的な心配を他所に、彼女は柵を両手で持って
半ば身を乗り出して目線を下に地面を見つめていた。
ものすごく何とも言えない空気で、シュールというべきか。手で柵をしっかり持っているあたり、死ぬ危険はないと思うが
、一応声をかけておく。第一発見者は嫌である。
「何やって・・・」
そうすると、あっけらかんとした様子で
「生を実感したいから」
「ああ、そうなんだ。って落ちたら危ないやろ。」
当然ながら少し引き気味で声がうわずっている、こんな答えが返ってくるとは思わなかった。不思議な人なのだろうか。
と同時に面白いとすら思った。こんな人なかなか居ない、いやもっともそこらにいてもらっても困るが。
「危ねえコトしてんじゃねえよ。世界は優しいところがあるんだよ」
「は?」
ぽかんとして一瞬空気が白くなったが、構わずに続けてしまう。面白いことと妙なことには首を突っ込みたいタチなんだ。
「死のうと思って高いところから落ちたら死なせてくれるっていうところ」
彼女は我が意を得たりという顔をした。
「面白い喩え話ありがとう。新入生総代さん」
「その名で呼ぶな、面白く無いな」
「でもさ、屋上でサボるのは私位だと思ってたのに、同じ考えの人がいるとはね」
「大体屋上でサボるなんてベタな考えなんだよ。先駆者になりたいならもうちょっとひねれよ」
どこに着地し、どういう方向にいけばいいのかよくわからない会話だった。ただ、この瞬間に彼女に自分と似たもの、すなわち
自分というものを世界に対して過大に考えているフシを感はじめた。
彼女は柵にもたれかかりこっちを向いて話し始めた。小柄で憂いげがある顔が特徴的ですらあった。
「なんで新入生総代さん、いや君と呼ぼうか、はサボってるの?一匹狼気取りなのかい?それとも単なる不真面目なのかい
?いや、授業がつまんないのかい?」
「授業が退屈だからだ。それ以外にはない」
「クラスから浮いてそうだね、かわいそうに」
「人のことは言えたものかい?」
「さぁ?どうだかね」
ここでただひとつの疑問を彼女にぶつけてみる
「なぜわざわざ屋上から下をのぞいて「生を実感」する必要があるんだい?人間、意識や感情があるかぎり生をいやでも実感しているん
じゃないか?」
「そんなんじゃ足りないんだ」
なんでそんなものを欲しがるのかわからないけど、これ以上突っ込んではいけないのは鈍い自分でもよく分かる。でも、考えるより
先に口が動いてしまった。
もう「後戻り」は出来ないのだ。
「考え過ぎなんだよ、自分を世界に対して大き・・・」
彼女は少し眼光が鋭くなって不機嫌な顔をして一言言った。
「世界はいつだって不条理だよ」
「ああそうだよ。世界というやつはいつも不条理で押しつぶしてくるんだ。それでも仕方がないだろう、どうにもならない。だから人間は
思いっきり抵抗するんだ。それはかなわないかもしれないけど」
「授業のサボりもそれの一つかい?」
「ハハッ、どうかな。微妙だな。世界に対する劣等感の裏返しかもしれないし、単にくだらない反抗かもしれない」
「くだらないな」
彼女は吐き捨てるように言った。確かにくだらない反抗というか小爆発みたいなものかもしれないけど。自分対世界の構図になってしまっている。
それは青臭いのかもしれないけど、そんな思いを抱くことは自意識過剰すぎるのかもしれないけど。
なぜ彼女が「生を実感」する必要があるのか疑問だが、多分それは彼女の根幹に係る話な気がして触れられるわけがない、ましてや初対面だ
個人的にはとても興味があるけど。俺は割と顔に出るたちなのでこんなことを考えているとバレそうで怖い。毎日を退屈に思っているからだろうか?
それとも死にたいほど悩んでいるけど必死で踏みとどまっているからとか? どちらにしても本人に聞く訳にはいかないしわからないのだが。
「知りたい?」
不意に彼女の声が耳に届く。ちょうど光がうまい具合に差し、彼女の長い髪が艶やかさを放ち、首を少し傾け、イタズラっぽく少し何かに興味を
持ったような笑みを浮かべていた。
「また会うことがあれば次は」
そう言ったが同時、また屋上の扉が開き、人間が入ってきた。全く今日は屋上へ来る人間が多いものだ。ここはサボりスポットとして有名なのだろうか、
そうなると別の場所を開拓しないといけないではないかだとすると困ったものだ。
「おっ、千秋、やっぱりここにいたのかい・・・あっ、邪魔したかな」
その声の主や連次。なにかとんでもない誤解をされているような気がする。何か言おうとすると、彼女が口を開いた
作品名:気まぐれ、神様、文芸同好会 作家名:白にんじん