キスをした
確かに、そうかもしれない…。気持ち悪い…そう思ってたかもしれない…ううん、絶対思っていた。さっきまで泣いていたひとみはもう全てを失なったかのようにフフフッと笑っていた。
「ごめんね……」
「大丈夫、それより藍…風邪ひいちゃうから帰りなよ?」
「あんたが…」
「私は…大丈夫だよ……いいから帰って?」
「でも…」
「いいから帰って!!」
ひとみは、私を追い払うような強い口調で言った。迫力に負けて私は仕方なく、学校へ行くのを諦めて家に向かった。すると、後ろから少し悲しいような狂った叫び声が聞こえた…。きっとひとみだ…
…戻ろうとしたけど、きっと見られたくないはないどろう、と思いそのまま進んだ…。私の頬には涙が流れた。
「…あ”ぁあぁぁ!!」
悲しい…胸が痛む。
家に帰ると、そのまま眠りについてしまった。
晴れた朝だった。けど、私は気分が重たかった…。急いでお風呂に入って学校の支度をした。――ひとみは、大丈夫かな?
そう心配が心によぎる…が、その日ひとみは学校に来なかった。
やっぱり風邪をこじらせてしまったかな?と思っていたが、一週間過ぎても…ひとみは来なかった。
「藍ちゃん…ひとみどうしたのかな?」
「さあ…どうしたんだろう……」
美香ちゃんが流石に気にかけてきた。そりゃそうだろう…もう少しでひとみが休んで二週間だから…。理由は…なんとか知っているけど、流石に言えない……。
そう憂鬱を感じながら時間は過ぎ、放課後。帰ろうとしたら担任に声をかけられた。
「藍さん、少し良いかしら?」
「はい?」
たぶん、ひとみのことだろう…。予感は的中
「最近、ひとみさん休んでいるじゃない?それでね、一度ひとみさんのお家に行ってみてくれないかしら?」
「…私、無理です」
「…貴方とひとみさんに何のトラブルがあったかは、知らないけど、親友だから。何とかなると思って…」
「親友なら美香だって居るじゃないですか…」
「そうだけど…」
「とにかく私は無理です」
すぐにその場を立ち去った。理由を聞かれそうだったから…。
だけど、廊下に出ると美香が居た。怖い顔をして…。
「…どうして、無理なの?」
「色々あったの」
すると、美香の目から涙が溢れてきた。
「どうして…私に何も言ってくれないの?藍も…ひとみも!」
静かな廊下でひとみの声だけが響く。何事か、と先生が教室から飛び出てくる。それでもお構いなしに美香は、
「どうして?私達、3人放課後以外はいつも一緒なのに!藍が、ひとみから距離置いた時、ひとみに何があったの?って聞いたのに、‘ううん、何もないよ’って…藍は相談してくれなくて…私っ、私……」
美香が泣いたの、初めて見た。心が痛くなった…確かにそうだった。ひとみから避けると同時に美香ともあまり喋らなくなった……。美香はこの2週間、孤独を感じていたんだ…。
すると、私も泣いてしまった。
「ごめんね…美香っ……」
「本当は、知ってるんでしょ?ひとみの休んでいる理由…」
「うん……でも、今は言えない…」
「そっか…じゃあいつか必ず言ってよ?」
「うん…ごめんね」
私は決意した、ひとみの家に行くと。この関係を治そうと思ったから。このままじゃ、美香もひとみも良い気持ちでは無い…もちろん私も。また、前みたいに戻りたい…
――――ピーンポーン
「はぁーい!どちら様~?」
「こんにちは、藍です。」
「あら~、藍ちゃん?…ひとみかしら?」
「はい…」
気のせいか、インターホン越しのひとみのお母さんの声が少し暗くなった。
「上がってちょうだい」
そう言うと、ひとみのお母さんは玄関のドアを開けた。
「おじゃまします」
「あのっ、藍ちゃん……ひとみ今、放心状態なの…無視されても傷つかないでほしい…」
「大丈夫です、では二階へあがりますね」
懐かしい階段、前は楽しげに上がっていたが、今は違う。
ドクン、ドクンと心臓が鳴り響く。二階を上がると右側にひとみの部屋がある。そこをノックしてみたが、応答は無かった。でも、鍵が開いていたので勝手に入った。
「…ひとみ?」
部屋は恐ろしいほど暗くて静かだった…が、一部光が差していた。ベッドの方でひとみが外を眺めていたのだ。
「ひとみ?私だよ…藍」
声をかけるとピクッと体が動いた。ゆっくりゆっくりとこちらに顔を向けてくる。うわの空…そんな感じだった。顔はあの時と一緒……公園での時…。
「ひとみ…前も言ったけど、色々とごめんね。今日は、ひとみに話があって来たの」
そりゃそうだ…と自分で思ったけど、今は頭の中がごちゃごちゃしているから仕方ない…。相変わらずひとみは目の焦点があっていない。
「あのね、私はひとみの気持ちに答えることはできない…」
「私の事が嫌いだから?」
ボソッとひとみが呟いた。凄く小さい声だったけど、静かな部屋だから何とか聞こえた。
「ひとみの事は好きだけど…友達としての好きだから……」
「でも!ひとみの事気持ち悪いなんて思っていない!体が拒絶しても、頑張って努力して、体も気持ち悪いなんて思わなくなるから!」
「嘘だよ…無理だよ」
「嘘じゃないし、無理でもない!」
私は今までに無いくらいに本気だった。それでもひとみは信じてくれない。それどころか、あの夜みたいに…狂ってしまった、体がブルブルと震えていた。
「あぁあぁぁ”あ!!」
「落ち着いて!ひとみぃ!!」
私は必死にひとみを抱きしめたけど、体の震えは止まらない。それどころか大きく震え始めた。
「ひとみっ、ひとみっ!!」
何回も名前を呼び続ける…。とっさに私はひとみの肩を強く掴んで……
清々しい、朝。ひとみの家に行ってから一カ月。
何故、あんなことをしたのか分からなかった。ひとみがどんな顔をしたのかも目を閉じていたから見れなかった。でも、そのおかげで今ではひとみと前みたいに仲良くなった。もちろん美香とも…。
その行動をした後、ひとみは落ち着いた。
「これは、私の本気の証なの…だから、ひとみもこれできっぱり諦めてほしい…こんなことしてって感じだけど…さ」
すると、ひとみは目に涙を溜めながらニッコリ笑った。耳まで真っ赤にして照れた。
「うん、私。諦める!迷惑かけてごめんね…今のって、藍の…その初めてだよね?藍は絶対、初めては大切にしたいって…それを私にしてくれた…嬉しい」
この言葉で、長く感じた三週間の出来事が終わった。
私がひとみに何をしたかって?この物語の題名を見たら分かるよ?
「あーーーーいっっ!おっはよー!」
聞きなれた声が後ろから聞こえてくる。私は思わず笑みが零れた。
「おはよー!ひとみっ」
満面の笑みで私は振りかえった。