母娘の情景
次の早朝、少女は泣きながら母を探して、家中を歩き回った。
その騒ぎで、和室で寝ていた父が目を覚ました。
少女は父に言う。
お母さんがいなくなったの。
いつも、夜、ベッドに来てくれたのに。
父は驚いて少女に言う。
何を言ってるんだ、夢でも見たのか。
おまえのお母さんは、16年前のおまえの4歳の誕生日に、事故で死んだじゃないか。
今日がちょうど17回忌だ。
少女は受け入れない。
だって、お母さんの髪の匂いも、肌の温もりも、まだはっきり覚えてる。
父は和室の片隅を指差して言う。
毎年、お墓参りに行っていたじゃないか。
ほら、そこに仏壇も位牌も遺影もあるじゃないか。
父が指差した先には、仏壇があり、仏壇の上の壁には写真が飾られていた。
写真の中には、いつもベッドで抱きしめてくれた母が、そのままの顔で笑っていた。
父がポツリと言う。
おまえに似て、お母さんも寂しがりやだったから・・・
きっと、一人で寂しかったんじゃないかな・・・・
少女は遺影の母を見上げて、泣き崩れるのだった。
作品名:母娘の情景 作家名:sirius2014