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架空植物園

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河川敷には数人の人が見えた。真珠はあるだろうかと少し心配になったが、一人は釣り人で、もう一人はおそらくカワセミでも待っているのだろう大きなレンズをつけたカメラを三脚にセットしたカメラマンだった。真珠桜の近くに一人いる。そいつが落ちた真珠を全部拾ってしまわないことを願いながら近づいた。

その若い男は、やはり落ちた真珠を探しているそぶりだった。左手を軽く握っているのは、もうすでに1個拾ったのかもしれない。さほど大きくない真珠桜の樹の真下は土と砂利、そして少し離れた場所に雑草が生えてい。オレは樹にあるサクランボを見た。半分真珠になりかけのそのサクランボも綺麗だった。一番熟れていそうな枝の真下の雑草の中を探した。やや早かったのかも知れない、なかなか見つからなかった。そう簡単に見つかっては有り難みが無い、などと自分に言い聞かせながら探した。新しい足音が聞こえた。これから次々とひとがやって来るかもしれない。早く見つけなければと少し焦り出した。

やがて太陽の光を浴びてキラリと光るものが見えた。おっ! これだな。近づいてそうっと雑草をかき分ける。まるで草から生まれたかのように、雑草の付け根にそれはあった。オレはそうっと軸の部分をつまみあげた。美しい! 

「綺麗だねえ!」
すぐ近くで声がした。おれはその聞き覚えのある声の主を振り返って見た。
「来ちゃった」
玖美が真珠に劣らない輝きのある笑顔でオレを見ている。オレは咄嗟に言葉が出なかった。
「それが私にプレゼントしてくれると言っていた真珠桜のサクランボね」
玖美はオレの手から真珠をとりうっとりと見つめた。
「全然気がつかなかった。オレのことずうっと見ていたの?」
やっと出てきたオレの言葉に玖美は頷いた。家を出た時から後をつけていたのだろう。
オレは周りの人を見る余裕も無かったので、気付かなかった。

「オレ、かっこ悪かっただろう」
「ううん そんなことない。私のために、恐怖を押しのけてここまで来てくれてありがとう。嬉しい」

かなり惨めな姿だったかもしれないが、玖美が少し涙ぐみながら言ったことを聞きながらオレは苦労した甲斐があったと思った。
「で、これなんだけど、そうっとここに置いて帰らない?」
「えっ、どうして」
こんなに苦労したのにという言葉を飲み込んで玖美の言葉を待った。
「だって、また必死にここに来るひとが何もなかったら可哀想でしょ」

オレはまだ樹になっているサクランボを見ながら、明日は新しい真珠が落ちているかもしれないが、今日はもう落ちないかもしれないから、玖美の言うことに納得した。玖美のその他人への心遣いも嬉しい発見だった。

「さ、楽しい吊り橋を渡って、少し上流まで歩きましょうか」
「ふ?っ まだ吊り橋が残っていた」
肩を落としたオレを見て玖美が大きな声で笑った。




作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川