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架空植物園

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     *     *     *

花が散ってまだ3日しか経っていないのに、もう小さな実が見えた。なんという可愛さだろう、まるで我が子のように思えた。依然として腕を動かすたびに棘がチクッとして痛さと痒さに似た感じがあって、それどころか強くなっている。棘が出た最初の頃にハサミで切ってしまおうかとも考えたが、今は実が育つ楽しみのほうが強くなっている。ハサミで切らなかったということは、この《別れは開放草》が人を選ぶというのは生き残るための見えない感覚なのだろう。巻き付いてその場でほどいたり、途中で切り落とす人間には巻き付かない。だから、忍耐と愛情のある人間を選んで巻き付く。

出勤するようになって、電車の混まない早朝に乗るようにしながら、腕輪を庇った。花の散ったそれはもうアクセサリーにしか見えなくて、人目は気にならなくなった。痛さに比例するように実は順調に育っている。《別れは開放草》という植物も次第に数を増やしているようで、情報も入ってきている。オレは経験していない人にはそれらの情報だけでは感じられない心の動きがあることを知った。実が緑から次第に茶色になった頃に、腕輪のどこかのバネが外れて、腕輪がとれるらしい。咲子が去っていったように……。

     *     *     *

外に出るのをやめて咲子のところに戻った。この感情は男女の恋愛感情では無いような気がして。泣いて止める自分の子のところに戻る母のような感じなのだろうか。そんな風に考えている自分が不思議だった。咲子に対してかなり怒っていた筈なのに。

立ったままでオレを見上げる咲子を抱きしめた。咲子もオレの腰に手を回して抱きしめる。
「ごめんね」
咲子がそれだけ言って黙った。それからゆっくりと手をほどきソファに向かった。

少しずつ聞いてはいたが、咲子の少女時代に体験した両親の長く続いた不仲、離婚問題がこのような性格を作ってしまったのだろう。まだ言っていないこんなこともあったのよと、咲子は昔のことを語った。出会った時のあの笑顔が出来るのが奇跡に思えるような嫌な体験を。
「なんだか、すっきりしちゃった」
咲子は笑った。今までとはまた違った笑顔で。
オレはその微妙に違う笑顔の意味を知ったのは翌日だった。

咲子が早退したことを知ったのは退社時刻だった。いつもはお昼も一緒だったのに、用事があるからと咲子は足早に駅に向かって行った。オレは詳しく尋ねるのをためらった。説明を拒否するような表情を読み取ったからだった。

なぜか嫌な予感を抱きながらアパートに戻った。予感は的中した。部屋に咲子の物は無かった。宅配と自分の手荷物で持って出たのだろう。こういうシーンではお約束のようにテーブルの上に手紙が置いてあった。中味は予想されたが開いて見た。

  ごめんね。自分でもバカだと思う。
  自分でも制御出来ないようなこの感情を分かってもらえないかと思う。
  短い間(長い?)だったけど、楽しかったわ。
  「行かないで」と言ったあの日
  自分の過去のことをほとんど全部話しながら、思ったの。
  全く自分を知らない人と、最初からやり直したいな……と。
  今度は焼き餅を焼かなくて済む醜男がいいかな(笑)
  きっと大丈夫だと思う……きっと。
  ありがとう。。。。。

オレはそんなに美男でもないよと呟いたが、淋しさと一緒に開放感を味わっていた。
  
     *     *     *

帰宅して上衣を脱いでいる時に、腕輪が外れた。2つに分かれたそれは別れともとれた。
実は付いたままだった。オレはその二つの元腕輪をどうしようか考えた。すぐにそれは土に埋めるのが一番いいと思った。そう思ってすぐに思い浮かべた近くの公園に向かった。まだ少し痛みとかゆみのようなものが残っている手首に痣のようなものが見える。それはそのまま消えなくてもいいかなとオレは思っていた。淋しさと一緒に開放感を味わいながら。





作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川