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架空植物園

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また別の【撫で撫で草】に触った。少し癖毛の感触。(これは、明菜に似ている)

        *         *

オレと明菜は高尾山の山道を歩いていた。
「今朝、早く目が覚めてしまったの」
「ふーん、何時?」
「4時頃」
「早いねえ。それでどうしたの、また寝たの?」
「布団には入っていたんだけどね、眠れなかった」
「じゃあ、今眠いんじゃない。歩きながら眠るなよ」
「わたし不器用だからね」
「なんだ、それ」
「そんな器用なことできないってこと、でも眠くないよ。どうして眠れなかったのって訊かないの?」
「どうして眠れなかったの?」
「一緒に高尾山に登るのが嬉しかったからよ」
オレは明菜を見た。ちょっと照れたような顔をしていた。オレの手は自然に明菜の頭を撫でていた。明菜がちょっと逃げるように離れた。
「なんで逃げるんだよ」
「逃げてないよ」
明菜がまた傍に来た。オレはもう一度その頭を撫でた。
「あのね」
明菜が前を向き歩きながら話を始めた。
「わたし、小さいからね。子供っぽく見られるの。それが嫌な時もあるのよ」
「いいじゃない、可愛いよ」
「でも、外国では頭を撫でるのは侮辱だというところもあるのよ」
小さくて気が強い明菜らしいと思った。そういう所も可愛いので、オレはまた頭を撫でてしまいそうになったのをこらえた。
「そうか、レデイだもんね」
「そう、レデイよ」
明菜が笑った。可愛いと思ったオレは上げかけて止めた手を明菜の肩に置いた。

        *         *

写真や標本を主とした展示室があって、【撫で撫で草】の詳しいことを知った。面白い戦略の植物だと思った。【撫で撫で草】は風媒花なのだが、それだけでは確率が悪かったところを人間が撫でることにより、極小の花粉が手に付き次の花に運ばれる。どうしても複数の花を触ってみたいという気持ちにさせてしまう感触の違いもこの花の戦略のようだ。この花は雄期に花粉を出し切ると雌期に入り、花粉を待ち受ける態勢に入る。これで遺伝に問題が起きやすい自家受粉を避けるのだという。

展示室を出たオレは、ここを出る前にもう一度撫でて見たい欲求にかられ、【撫で撫で草】ゾーンに向かった。




作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川