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架空植物園

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撫で撫で草



オレが来ているのは植物学者の私的な研究植物園なのだが、一般開放もしている。花の美しさを見せるよりも、珍しさや楽しさを重視した植物園だった。だから花の色も地味なものが多いが、えーっと驚くものも多かった。

こんな花は見たことがなかった。大きなネギ坊主にトウモロコシのヒゲ(?)が付いてような花だ。女性のショートカット髪型そっくりなのである。オレはあまりに可愛いので、思わず撫でてしまっていた。プレートに表示によると、長いカタカナの名前があって、別名【撫で撫で草】。そこに《やさしく撫でて下さい》と書いてあるのにも驚いた。(あ、撫でてもよかったんだ)とオレはあらためて撫でてみる。丸みと微妙なざらざら感のある感触に嬉しさが伝わってくるようだ。その【撫で撫で草】ゾーンには大きさや形、色が少しずつ違った花が咲いていて、いくつも撫でてしまう。

これは飼い猫のミュウに似ているとオレは思った。撫でている【撫で撫で草】の大きさが丁度猫の頭と同じくらいだった。次にもう少し大きめの【撫で撫で草】に触った。
(あ、あの時の感触!)

        *         *

ユミが電車の座席に座って、オレはその前に立って会話をしていた。電車が速度を落としアナウンスが駅名を告げる。
「あ、降りる駅だ!」
オレが電車から外を見ながら言った。ユミが座席から立ち上がった。オレがつり革につかまっていた手を放して降ろす動作とのとユミが立ち上がるのがかち合ってしまった。
「いたっ!」
「あ、ごめん!」
電車から降りたホームでユミが頭を押さえ、うらめしそうな目でオレを見ている。オレはユミの頭を手を置き「痛いの痛いの飛んで行けぇ」といいながら撫でた。
さらっとした髪の毛と頭の丸みが気持ち良かった。
「なんで殴られなくちゃいけないのよう」
そう言いながらもユミの表情が怒った顔から笑顔に変わった。
「ごめん、つり革から手を降ろして所にユミが立ち上がったもんでね」
ユミは分かっているよ、でも痛かったとでもいうように自分の頭に触った。
「ユミの頭、形がいいね」
オレはまた撫でてしまった。
「え、そうかなあ、自分では分からないわ」

        *         *

あの日、あれからどこに行ったのだろうとオレは思い出そうとしたが、全く思い出せなかった。もう何十年も経ってしまったが、頭の感触だけがしっかりと記憶されていた。


作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川