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架空植物園

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笑い蕨



ゴールデンウイークに東北にある生家に帰省した時に、兄が「明日、蕨採りに行くか」とオレを誘った。久しぶりの帰省だったし、小さな山ではあったが、懐かしい気持ちと小さい頃の思い出が蘇ってきた。小さい頃はただ単に山に登るのではなく、栗を拾ったり、アケビやキノコを採るのが目的だった。

「ワラビか、いいな、行くべ」
「今年は特別な年なんだ。笑い蕨が出てるらしいぞ」
「え、笑いワラビって、作り話じゃないの?」
「いや、前に採れた年から今年はちょうど27年目にあたる」
「オレの年と同じだ」

まぼろしのワラビともいえる笑い蕨。それを食べると何とも言えない至福感があって、副作用も無い。知る人ぞ知る蕨なのだ。日本全国どこでも採れるわけではなく、この近辺特有の蕨だった。その蕨は笑うのである。それは、人間の笑いに反応して似たような音を出すらしいが、笑うという表現がぴったりらしい。

もう父は亡くなっていたが、笑い蕨の探し方は心の底からの笑いが必要という簡単なようでもあり、微妙な条件があった。作り物の笑いではダメで、心の底からの笑いが必要ということだった。といっても、オレは見たことも笑うのを聞いたことも無い。兄は父と一緒に蕨採りに行って笑い声を聞いたというかすかな記憶があるという。何せ幼少のこと、明日、笑い蕨に出会ったとしてもほとんど初めての体験と同じだろう。普通の蕨の中にまぎれている場合もあり、全く人目に付かない場所に群生している場合もある。もちろん狙うのはその群生になる。町のどこかにある買い入れ所に持って行けば少しまとまった小遣い稼ぎにもなるかもしれない。

「だが、困ったことがある」兄が眉間にシワをよせて言った。
「おまえと二人、山の中で腹の底から笑える話ができるか?」
自慢じゃないが、兄もオレも無口なほうだし、あまり冗談を連発する性格ではなかった。
「オヤジはどうしたんだろう?」
「思い出した。あの時は、たしかオフクロが一緒だった」
「じゃあ、おふくろも連れて行く?」
「バカかお前、27年前のオフクロだったらケラケラ笑っていただろうが、明日一緒に行くことになっても、笑うどころか泣くだけだろう」
「そうか、オヤジ亡くなってまだ2年だ。じゃあどうしよう?」

「お前、だれか面白いやつ知らないか? だが、見つけることが出来たとき、その場所を他人に知られたくないな」
兄はしばらく頭の中で人選しているようだ。
……身内でよく笑っているやつ。他人も笑わせているのを見たことがある。
「ヨーコ!」
「ヨーコ!」
兄とオレは同時に妹の名前を叫んだ。ヨーコは隣町に住んでいる新婚さんだった。

作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川