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鳴神の娘 第一章「雷(いかづち)の娘」

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 ずっと襟の中に入っていた少彦名は、随分と窮屈だったらしく、肩や首をぐるぐると回しながら呟いた。
「あたりまえじゃない!」
「……そういうものかの」
 少彦名は納得しかねるように言った。
「--ところで斐比伎。わしは腹が減ったわい。何か、食べ物はないのか」
「あ、そうか。忘れてたけど、そういえば、もうとっくに夕餉の時刻を過ぎてる頃だわね。わかった。とりあえず、何か食べるものをもらってきてあげるわ。私もおなかすいたし」
 斐比伎は立ち上がり、室の扉に手を掛けた。
 そんな斐比伎を見上げて、少彦名はためらいがちに口を開く。
「……のう、斐比伎」
「なに?」
 斐比伎は軽く振り返って聞いた。
「……大和へは、行かぬほうがいいと思うが」
「何言ってんのよ」
 少彦名の言を、斐比伎は一笑に付した。
「あなたも、今の父様のお話を聞いたでしょう? 吉備の姫である私が行かないわけにはいかないでしょうに。--少彦名ったら、お腹すきすぎて頭が変になったの? わかった、すぐに食べる物もらってきてあげるからね!」
 軽やかに笑い、斐比伎は室から出ていった。
 閉じられた扉を見つめ、少彦名は考え深げに嘆息する。
「……行かぬほうが、よいのじゃ」
 小人神は、託宣を告げるように呟いた。
「お前が今のままでいたいのならば、な」




(第一章終わり 第二章へ続く)