朱に染まる
「―――う、団長!」
目を開けると眩しい光が視界を白く染めた。二、三度まばたきをすると、白い世界に見知った姿が浮かび上がる。
「居眠りしてないで仕事を片付けてください。また書類がたまってるんですから」
真面目な副官が呆れ顔で仕事の催促をしてくる。どうやら今まで眠っていたようだ。
「ああすまない。あまりに心地よい陽気だったのでな」
「だからといって執務中に居眠りはやめてください。大体、この仕事量では居眠りする余裕なんてないはずでは?」
仕事を怠けた時の副官は厳しい。だが嫌ではない。怠けたこちらが悪いのだし、飽き性でめんどくさがりである私一人では、仕事は一生片付かないだろう。
副官には迷惑ばかりかけている。
「今度、皆で花見に行かないか。この国には花の美しい場所がたくさんあるんだ。それを見ずにいるなどもったいない」
黙々と自分の仕事をこなしていた副官が、手を止めてこちらを見る。またか、とでも言いたげな顔だ。
「・・・で、花を見ながら酒を飲むんですか?」
「当然だ。花を見ながら飲む酒は美味いぞ」
「団長は花より酒が目当てでしょう? 全く・・・」
副官はやれやれと言わんばかりの様子である。失敬な。花より酒が好きなのは認めるが、あくまで部下たちの日頃の働きぶりに対する慰労と美しいこの国の花々を愛でるために提案したのだぞ。
「花見をするつもりなら、それまでに仕事を片付けてください。仕事が終わったら花見酒でもなんでも付き合いますから」
「本当か? その言葉、忘れるなよ」
「団長こそ花見をしたいならさっさと仕事を片付けてください」
久々に勤労意欲が湧いてきたので勇んでペンを握り山と積まれた書類と向き合う。この素晴らしい陽気に室内に引きこもっているのは惜しいが、花見のためには致し方ない。
眩しい光。花の美しいこの国。厳しいが面倒見のいい副官。働き者で気のいい部下たち。
「―――とは大違いだ」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
この世界は朱に染めたくない。