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蝉の王

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ボクは画面をよく見た。日付はおとといになっている。最後に見たときは無かった書き込みだ。
「謙吾へ
オレはもう駄目だ。知らないだろうが謙吾がいなくなった後、次のターゲットはオレになった。毎日が地獄だった。みんなはどんどんエスカレートし、オレたちが木下にやってたことなんて目じゃないくらいひどいことをオレにしてきた。謙吾をターゲットにしたのは、そうしなければオレの番になってたからだ。
オレは謙吾を裏切るつもりはなかった。でもお前を助けることも出来なかった。ほんとに悪いと思ってるし、後悔もしてる。お前がオレにすがったときの顔をオレは忘れない。謙吾、まだ部屋にいるのか。もしそうならこの苦しみ、この絶望は分かるよな。オレもこの5年自分の部屋にいる。一歩も外に出てない。一歩も外には出なかったが毎晩夢であいつらは俺をいたぶりつくす。俺は眠るのが怖い。いや起きていても悪夢を見るんだ。
オレたちは誰かをはめること以外の話題は無くなったし、お前がオレをどう思っているかは分からない。憎んでもいるだろう。でもこれだけは分かってほしい。オレはお前を友達と思ってた。
 覚えているよな、中一の夏、オレがトイレに閉じ込められて出られなくなった時、お前が助けてくれたこと。やられている奴を助けるのがどれだけ危険なことかわかってたはずだ。でもお前は無理やり、トイレをこじあけた。オレはあの時お前は友達だと思ったよ。それから二人でつるんだな。このブログはおもしろかったな。まさか、自分がまた生贄になるなんて思いもしなかったよ。謙吾、オレたちはなんであんなことを始めたんだろう。
謙吾、助けてくれ。ここから出せるのはお前しかいない。あの中一の時、トイレからオレを出してくれたように。オレが頼れるのは結局お前しかいない。 このサイトを見たら連絡をくれ。頼む。明」

ボクは読み終えると天井を見つめた。明はボクに助けを求めてきていた。明も苦しんでいた。加害者だと思っていた明もまた被害者だった。ボクが明に会いに行った理由はなんなんだ。ボクが6年間抱いてきた絶望ってなんなんだ。
「謙吾君、明君の次のターゲットはまたボクだったよ。明君が学校へ来なくなってみんな退屈し始めたんだ。ボクは謙吾君と明君がターゲットになって助かったと思ったのにまただったよ。ボクは必死に次のターゲットを見つけようとした。でも駄目だった。ボクは何も出来なかった。今日ボクが自分の部屋から出てきたのは5年ぶりだよ。」
そこまでいうと木下は突っ伏し、突然嗚咽を始めた。
「謙吾君、なんでこんなことに。こんなことになっちゃんだろう。」
そして木下はぶつぶつと意味不明の言葉をつぶやき始めた。
 ボクは明がくれた最後の書き込みを何度も見つめた。携帯の小さな画面の中にあふれる明の気持ち。時には声に出してみたりもした。明がボクのことをこんな風に思っていてくれたことなんてまるで知りもしなかった。なぜもっとはやく言ってくれなかったのか。ボク達は何だったんだろう。明はボクの何を見ていたんだろう。そしてボクは明の何を見ていたんだろう。中一の夏、トイレから明助け出した時の明の安堵に満ちた顔を思い出した。木下、ボク、3人に何の変りもない。なのに、明は逝ってしまった。木下は壊れてしまった。そしてボクはまだ土の中にいる。
ボクにはまだすべきことがあるはずだ。そう願いたい。昨日の流れ星が頭をよぎる。今、出来ることは祈ることより他に無い。気がつくと、涙がほほを伝ってくる。生まれて初めて涙だ。太ももに刺した時の血と同じぬくもりを感じる。
「木下。」
 木下に涙声で声をかける。木下は泣くのをやめ、ボクに恐る恐る顔を向ける。ボクは木下の目をじっと見つめる。初めて、木下と向かいあった気がした。涙で段々目の前が見えなくなっていく。ボクは面会用のガラスに両手をつける。ボクは出てくる精一杯の言葉をかける。
「もう終わりにしよう。何もかも終わりだ。」
木下は、少し首をうなづく。書き込みの「友達」の文字だけは涙の中からはっきりと見える。窓越しに外では蝉が今年一番の鳴き声で鳴いている。そして一匹の蝉が鳴きながら大空へ飛び立っていった。

蝉は6年間土の中にいて1週間だけ外に出て鳴く。ボクは6年間闇の中にいて、光を知った。                了                 
作品名:蝉の王 作家名:間 聖人