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蝉の王

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蝉は6年間土の中にいて1週間だけ外に出て鳴く。

放課後、ボクらのイベントは始まる。とてつもなく上がるイベントだ。教室に鍵をかけクラスの全員が参加する。今日も主役は木下だ。木下っていうのはボクらのクラスで一番ナイスなリアクションをする奴でマジ受けるんだ。奴は天才だ。机を隅に寄せてスペースを作る。楽しいことをするときはみんな動きが早い。木下を中心にしてみんなが周りを囲む。ボクと明がみんなの中心に居座る。ボクと明でこのイベントを仕切る。ボクが号令をかける。
「木下! ズボン脱げよ。」
歓声が上がる。男子は手を叩いて騒いでいる。女子も嘲笑ってる。木下はもう泣きそうだ。木下はうずくまって動かない。ボクはみんなの顔を見ながら木下の脇腹を蹴る。木下がうめき声を上げて転げる。情けない姿だ。
「脱げよ!」
耳を引っ張り無理やりに立ち上がらせ、大声で命令をする。
木下はゆっくり立ち上がり、制服のズボンを脱ぎ始める。クラスのテンションは上がる。ボクのテンションも上がる。
「パンツもだろ。」
明が命令する。明はボクがして欲しい以上のことを思いつく。さすがは相棒。
木下は全身だらりとさせている。涙のたまった虚ろな目でパンツを脱ぐ。明が写メを撮ろうとする。
「なんだコイツまだ毛生えてねーぞ。」
明が笑う。
「まじかー 」
ボクも笑う。クラス中大爆笑だ。木下が泣こうがわめこうがパーティーは終わらない。まだまだこれからえぐくて最高なギグが続く。

 うちに帰るとパソコンに電源を入れ、明とチャットを始める。あいつとのコミュニケーションツールは主にチャットだ。パスワードを入れインする。
「明、いるか?」
ボクは慣れた手つきでキーボードを叩く。
「待ちくたびれたぞ」
早速のレスだ。
「悪い、悪い。でも今日はうけたな。パンツ脱がすのは最高だな。やっぱお前はすげーよ」。
ボクは明の功績をたたえる。
「まあな。女子もめちゃくちゃ笑ってたな。」
「あいつらが一番えぐいよ。」
ボクは昼間の笑ってた女子の顔を思い浮かべた。

ボクらは2―4組の14歳の支配者だった。ボクと明のいうことにみんな従い、むかつく奴は排除した。ボクらは毎日、学校へ行き教室という名の王国で君臨していた。むかつく奴を排除するのは簡単なことだ。明と組んで始めたブログにイベントの日にちを知らせる。「何月何日ターゲット誰々」という具合だ。むかつく理由なんて大したものはなかった。何となくきょどってるとか、きもいとか。単にむかついてる時は誰でもいい。暑いとかも理由になる。むかつく奴に恥ずかしい格好させてそれを携帯で撮ってクラスのみんなで共有しているブログで流す。調子のいいときは、パンツまで脱がしてしまう。それだけでそいつは終わりさ。ボクも結構えぐいこと思いつくが、明は半端無い。ブログを思いついたのもあいつだ。あいつはホントにツボを分かってる。ボクらはみんなより頭がよく、立ち回りも心得ていた。腕力は無かったけど、力はあった。先生? 目じゃなかったね。先生なんてばかさ。何が起こってるかまったく分かっていない。まあ分かるようにはやってなかったし、チクルなんて許さなかった。まあ、その辺のバランス感覚はボクの方が明より上だったね。明は若干暴走するときがあるからたまに締めないとまじやばい。ボクと明は中一からつるんでるが奴といて退屈したことは無い。面白いことするには面白い奴とつるまなきゃだめだってことだ。そしてクラスの本当の秩序はボクらで保たれていた。秩序を形作るのは校則じゃなくてボクらの言葉だったのさ。

「おい 昨日の写真、アップしといたぞ。」明がメールで知らせてくる。退屈な数学の時間だ。携帯を見る。授業中だって携帯はしょっちゅうやってたし、常にチェックできるようにしておいてある。二人で始めたクラス共通のシークレットギグという名前のブログ。中にはご機嫌なコンテンツばかり。コンテンツを作るのにはセンスが要る。センスの無い奴が作るコンテンツは退屈なだけだ。入るにはパスワードが必要だ。パスワードを入力し、ブログを見る。今日の日付の書き込みだ。
木下の全裸の姿が写ってる。ボクは笑いをこらえるのに必死だった。明の方をちらっと見る。明がこっちをみてにやっと笑う。ボクは指でOKサインを作り明に返す。
「ナイス カメラ! 」明にメールを送った。

その日の放課後、みんなに号令をかけドアの鍵をかけさせる。輪の中心はもちろん昨日の主役木下だ。
「き・の・し・た。」
ボクはわざとためを作り名前を呼ぶ。今日も最高のギグが始まる。蝉の鳴き声がBGMの心地よい真夏の祭典。
「おい、脱げよ。」
今日はどんな写真を撮ってやろうか。考えるだけでぞくぞくする。木下は動かない。仕方ない。今日もおしおきかな。ボクはふーとため息をつき、どうしてやろうかアイディアを練った。楽しい瞬間だ。
「脱ぐのはお前だよ、謙吾。」
ふいに後から声がする。謙吾はボクの名前だ。後ろを振り返る。木下はみんなの輪に入ってる。気がつくとボクは輪の中心にいた。男子の一人がボクの腹を殴る。
「調子ぶっこいてんじゃねえぞ! 」
腹に強烈な痛みが走る。ボクはその場にうずくまる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
ボクは意味が分からなかった。だが無駄だった。男子が5-6人ボクを囲む。昨日までボクらの言うことを聞いてたやつらだ。ボクは明のほうを見る。明は気まずそうにうつむいている。明の表情でボクは真剣にやばい状況だということに気付いてきた。
ボクを囲む奴らの中に木下がいる。そんなことありえない。木下の為のパーティーだ。どうしてボクが祭り上げられる。変だ。変だ。わけが分からない。頭が混乱してくる。パニック。ここはボクらの王国のはずだ。王国の王様がなぜこんな目に合うのか。革命。その言葉が頭の中をぐるぐると回る。革命か、革命が起きたのか。なぜボクが処刑されるのか。
「おい何してんだよ。脱げよ! 」
男子の輪がボクに迫ってくる。木下もその輪に入っている。昨日までとうって変わって自信に満ちた表情。完全に立場が逆転している。追い詰められた。このままではまずい。ボクは立ち上がり男子を振り払い、逃げようとする。しかし、ドアは両方ともふさがれている。何故だ。何故だ。何故だ。
「うううう、うわー!」
ボクは大声を上げ、教室を走り回る。
「何だ、こいつ切れやがった」
クラスのみんなが笑う。木下も笑っている。笑い声が気持ち悪い。みんなの顔が見えない。明にすがる。
「助けてくれ。助けてくれ。」
明の手を必死につかむ。明は一瞬戸惑うが、目をそらし、ボクの手を振り払う。みんながボクの方へじわりと寄ってくる。男子だけでなく女子も一緒だ。殺される。とっさにそう思った。今までに感じたことの無い恐怖。ボクは空いてる窓へ向かってダッシュした。そして、窓から飛び降りた。教室は3階だ。飛び降りる瞬間全てがスローモーションになった。周りの風景も、ボク自身も。もちろんボクは空を飛べない。でもその時は空が飛べたら、蝉のように飛べたらと願った。
作品名:蝉の王 作家名:間 聖人