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イミテーション・ビューティー

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 その男は達磨か西瓜のような丸い物体を携えていた。どうやらそれは、服飾品の展示の際に用いられる等身代人形の頭部らしかった。
 マネキン人形の頭部だけを大事そうに抱えつつ、男は海辺へと辿り着いた。
 そうしてしばらく水平線の向こう側を見つめてから、ふいにマネキン人形の首をさざめく波間へおもいきりよく放った。
 首はとこぷん、と小気味好い音をたて、しばしの間ふよふよとみなもを漂っていたがそれもやがては小さくなり、いつの間にやら影も形もなく消えてしまっていた。

 ***

 男はたった一人で立ち尽くし、誰に語るでもなく呟いた。
「世界は普く、美しい」
 その言葉のわずかな残響すらも、すぐに潮騒に吸い込まれていった。