幽霊青年と赤マフラー
『…そっか、結局そのまま死んじゃったのか』
「即死だ、って警察が言ってたわ」
『柚葉ちゃんは怪我しなかった?』
「…心の怪我以外はね」
そう言いながら、彼女は僕のお墓をゆっくりと撫でる
その手は震えていて、今にも壊れそうだった
本当は今すぐ手を伸ばして抱き締めてあげたいけど、無情にも僕の体は彼女の身体には触れることなくすり抜ける
四苦八苦している僕を見て、思わずといった顔で笑っていた
「海月が居なくなった日からずっと空っぽだった
何もやる気が起きなくて、大学を辞めて引きこもった
親が心配して来てくれてたけど、一回足りとも出ていかなかった
そんな日が続いていたらね、
海月と会う少し前に差出人不明のメールがきたの」
彼女は携帯を見ると、
【初めまして、富野 遥っていいます
突然で申し訳無いんだけど、海月に会いたいか?
会いたいなら、今すぐ海月と初めて会った場所に行って欲しい】
画像ファイルには僕の寝顔が入っていた
「凄い怪しかったけど、従ったら会える気がしたの
案の定、会えた」
『…このメール、恐らく遥が死んでから送ったものだよ』
「死者からの手紙、ってやつ?」
『多分ね』
「有難う」
なんて言ったら、
「一体何の事だ?」
なんてはぐらかすんだろうね
1人苦笑すると、一瞬視界が歪んだ
「…海月、消えちゃうの?」
『みたいだね』
段々と体は青白く光り、体を透かしていく
もう、1分と持たないだろう
『僕はね、柚葉ちゃんを守れて良かったよ
もっとも、欲を言えば
もう少し君と一緒に生きて居たかったけど』
「欲張って欲しかった」
『僕を忘れて
…なんて言えないけど、君には前に進んで欲しい
今までも、これからも大好きだよ
柚葉』
『…私も大好きよ、海月』
最後に見えたのは、
彼女の頬に浮かぶ【0】という文字だった
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潮風の吹く海沿いの丘、
1つだけあるお墓の上には
赤いマフラーが置かれていた
fin.
作品名:幽霊青年と赤マフラー 作家名:渚 奏