放課後シリーズ
「おまえのは見本にならへんって」
上芝に窘められて、ようやく森野の指は杉浦の頬から外れた。
「なら、おまえも一緒に来ればいいじゃん。実技指導担当で」
「おまえは?」
「精神面&解説担当」
「あほくさ、俺は受験生やっちゅーねん」
「はいはい、そこまで」
今度は小橋が割って入った。一瞬、沈黙の後、四人は一斉に笑い出した。普段の道場ではありえない笑い声だ。神事にも通じる弓道のための神聖な場所は、余計な私語は一切禁止されている。それに、こんな穏やかな気持ちで接したことはない。上級生二人と後輩二人の関係は、言わば逃げる者と連れ戻す者だったからだ。
一しきり笑った後、後輩二人は先輩達がまだ道着姿なのに気がついた。
「早く着替えて来てくださいよ。みんな、待ってますから」
小橋が追い立てるようにして、二人の肩を叩いた。
「打ち上げ、面倒くせー」
大きく伸び上がりながら、森野は立ち上がる。
「最後くらい、ブッチしないで、ビシッと決めてくださいよ」
抓られた頬を擦りながら、小姑よろしく杉浦が言った。
「ビシッと決めたところで、今までが今までやから、説得力、まるで無しやぞ」
上芝はまだ座ったままだ。
「誰も期待してませんよ。けじめです、けじめ」
小橋が上芝の腕を引っ張る。「やれやれ」と上芝は立ち上がり、「小橋、きっつーい」と森野が茶化した。
前主将・副将コンビは最後まで見張られながら、ようやく道場の出口に向かう。
新主将・副将コンビは最後まで二人から目を離すまいと、その後ろについた。
先の二人が立ち止まり、振り返ると一礼する。後輩の二人も続き、そうして四人は弓道場を後にした。
にぎやかな話し声は廊下の先へと遠ざかり、残ったのは群れる秋茜――安土の前で、『四射』の余韻を楽しむかのように。