放課後シリーズ
さきほどの袴姿の上級生だ。姿同様、関西弁が珍しい。片肘をついて小橋を見ている。それかひらひらと空いている方の手で、小橋を手招いた。
見ず知らずの人間に片手で呼ばれる筋合いはないと思ったが、入学早々、上級生に逆らって目をつけられても困るので、小橋は大人しく従い、彼の前に立った。銀の細いフレームの眼鏡がインテリっぽく、どちらかと言えば痩せ気味の体格は、小橋ほどではないにしろ運動部のものには見えなかった。
「新入生やな? もう入るクラブ、決めた?」
「まだです。帰宅部でもいいかと思って」
「でも熱心にパンフ、見てたやん。興味あるんとちゃうんか?」
「別にそう言うわけでも。これって思える部活はないし」
「どっか見学に行った?」
聞かれて小橋は、見学した部活を列挙する。なぜか自然と後ろ手になり、直立不動の体勢になっていたが、小橋自身はそれに気づいていない。
「文化部ばっかやな。運動部は?」
「身長ないから、向いていないと思います」
これはもしかしなくても勧誘かも知れない――小橋はあらかじめ予防線を張った。運動部ともなれば体格がものを言う。まだまだ子供体型で、見た目にも文化部もしくは帰宅部系なのだから、よもや本気で勧誘する気はないだろうが。
「何センチ?」
「百五十…八センチ」
五日前の身体計測では百五十七センチ足らずだったが、一センチくらいのさば読みは許されるだろう。上級生の口元が初めて緩んだ。百五十と八の間が少し空いたので見透かされたかと思い、小橋は緊張する。
「俺、今は百七十ちょいやけど、一年の時は『百五十八』なかった。これから大きなるよ。それに体格関係ない運動部もあるけど?」
「剣道部ですか?」
「何で剣道部やねん? ああ、これか」
上級生は自分が穿いている袴を見た。
「あんな汗臭いんと一緒にすんなよ。俺は弓道部」
「弓道部?」
「そ。気合で勝負するやつ」
弓道部など、小橋の部活の概念の中には存在しなかった。そんな部活があったのかと、午前中の『プレゼンテーション』を振り返る。そう言えば袴姿の部活を見たような気がするが、剣道部だったかも知れない。興味のない運動部の部活紹介は聞き流していたから、記憶に残っていないのだ。
「もう少ししたらデモンストレーションするから、見て行きぃや。ここで時間潰すより退屈せんと思うけどな」
「居た! 上芝!」