放課後シリーズ
第五回 清明の頃に
「ねえねえ、そこの彼氏ぃ」
「自分や、自分」
「良かったら、覗いてかない?」
「体格関係ない運動部もあるけど?」
「弓道部なら即レギュラー」
「退屈せんと思うけどな」
私立遥明学院高等部では、入学一週間目に新入生歓迎会が催される。新一年生に充実した三年間を過ごしてもらうために部活動を紹介する、早い話が大勧誘大会であった。午前中は体育館で、各クラブが持ち時間七分のプレゼンテーションを展開し、午後からはそれぞれの部活動の場で、見学者や入部希望者を『おもてなし』する予定になっていた。
どのクラブも一人でも多く部員を獲得しようと奔走する。部員の増加はイコール活発な部活動を意味し、予算委員会での発言権を微妙に左右した。従って毎年、熾烈な部員獲得合戦が繰り広げられる。
「小橋ぃ、どっか入んの?」
「まだ決めてない。でも多分、入るなら文化部かなぁ。体力ないし」
小橋裕也はさして興味もなさげに、パンフレットをめくった。部活参加が義務付けられていた中学時代は、囲碁・将棋部に所属していた。身体がまだまだ小さく、どんなに食べても肉がつかない体質の彼は、運動神経は良い方だったが、運動部には不向きな体格をしていた。囲碁・将棋部ならコンピューター・ゲームの先祖のようなものだし、きっちり時間通りに部活も終わる。練習や試合で休みの日がつぶれることもなかった。選んだ理由はその程度のもの。高校でも、きっと同じような理由で部活を選ぶだろうと、他人事のように考えていた。いっそ帰宅部でも構わないくらいだ。一応、午後から部活見学はしてみるつもりではいたが、運動部は眼中になかった。