小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

放課後シリーズ

INDEX|23ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

 地区大会が目前に迫っている。団体戦には二、三年生に一年の上芝を加えた五人が正選手、補欠は森野に決まり、個人戦には前述の六人が参加登録された。個人戦に出るには森野は他の一年同様、まだまだ技量不足だったが、無理やりにでも出しておかないと、弓道部から離れる恐れがある。と言うことで、本人にも学校にも恥をかかせるのを承知でメンバーに入れたのだ。
――スポ根は柄じゃねぇってのに。
 等閑な態度で記録をつける森野の頭に、兄の拳骨が落ちた。
「ちゃんと座れ。神様の前だぞ」
 上座近くに神棚があり、兄はその方向を目で示した。森野は「やれやれ」とばかりに浅く息を吐き、机についた立て肘を外して居住まいを正す。
 森野の視界の端に上芝知己の姿が入った。次にでも的前に立つのだろう。
 森野がこうして間近で彼を見るのは、入部以来だ。入部して来た時は制服のままで、弓も引かなかった。それからは森野自身が弓道場に居着かなかったので、まともに彼の射を見るのは、今日が初めてだった。
 兄に「見ろ」と言われるまで、上芝の射など眼中にはなかった。上芝のみならず誰の射も、森野は意識して見たことがない。今だってそうだ。たまたま次に彼が引くだけであって、それでなければ、見るのはまだ先になっていたかも知れない。
 射位にいた二年生が引き終えて下がり、上芝が前に進んで入れ替わる。彼は成長途上の体格で、一年生部員の中では一番小柄だった。顔つきにもまだ中学生くささが残っていて、上級生と並ぶと大人と子供ほどの差が歴然とあった。隣の射位には大柄な森野の兄が立っているからなお更だ。
 森野はぼんやりと彼の後姿を見た。淡々とした動作で射法に入る。
――あんな小っせぇのに、中んのかよ
 腕も腰もまだまだ細い。さほど体型的に変わらない森野は、自分が初めて弓を引いた時のことを思い出した。初心者のため、弱い弓を使ったにもかかわらず、筋力のない森野の腕にはかなりの負荷がかかり、放たれた矢は無様な軌跡を描いた。以来、鉄棒を使った斜め懸垂やら、ストレッチ、ゴム弓での練習が主だ。地道で地味な練習が、更に森野の弓への興味を失わせた。
 家では兄から逃れようがない。森野はここのところ毎晩、彼の監視下でゴム弓を引かされている。
「弓道は個人競技だ。自分自身が練習しないかぎり、上手くなんねぇんだぞ」
作品名:放課後シリーズ 作家名:紙森けい