放課後シリーズ
基礎練習嫌いで隙あらばサボる術を算段する森野と、面倒くさがり屋でなかなか本気にならないマイペースの上芝――それぞれ違った意味で顧問や先輩達の頭痛の種であった。しかし、いざ試合となり安土(あづち=的を立てるために土を盛ったところ)に向かうと、森野は人並み外れた集中力で皆中させ、主将となった二年の秋から向かうところ敵なし状態。そして上芝はそんな森野につられるように団体戦の行射では外したことがない。廃部寸前だった弱小弓道部がインターハイ出場を果たし、団体ベスト4、個人優勝者まで出したその栄光は、この遥明弓道部史上最悪にして最強の主将・副将コンビによるところが大きかった。
――当然、大学も一緒だと思ったのに
森野は掌に顎を戻し、日直日誌をつける上芝を見つめた。
インターハイで個人優勝した皓は、九月に入ってすぐ大学部への進級が内定した。それは団体戦のメンバーだった他の三年生も同様だ。だから上芝も当然、ここの大学部に進級すると思っていたのに、新学期の進路指導で外部入試に変更したことを、森野は顧問から聞いて知ったのだ。
そりゃあ…と森野は思う。
――そりゃあ、親友ってわけじゃないけどさ、一言くらい言ってくれても
部活以外で一緒だったことはない。休みに会うことも、遊びに出かけたことも、お互いの家を行き来したこともなかった。友達と言うにはあまりにも淡白なつきあいだが、特別な存在ではある。まったく弓道などに興味がなかった森野を、インターハイ優勝にまで導いたのは、実は上芝なのだから。
引退して部活がなくなった今、作らなければ話す時間もないことに気がついた。ここ数日、森野はそのタイミングを見計らって、上芝の周囲をそれとなくウロウロしている。部と言う接点がないと、こんなに遠い存在だったのかと、今更ながらに思う森野だった。
「なんや? 気色悪いな。言いたいことあるんやったら、言えや」
視線に気付いたのか、上芝が言った。眼鏡の奥の目は、日誌に向けられたままだ。
彼の振った言葉に誘われて、聞きたかったことが森野の口から滑り出た。
「なんで上に行かないんだよ? 俺は一緒にまた弓が出来ると思ってたんだぞ。一言も言ってくれないでさ、多少は傷ついてんだ」
「そりゃ、すまんな。おまえがそないに俺の進路に興味あると思わんかったし」