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放課後シリーズ

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 確かに上芝に勧誘されて入部したが、だからと言ってお守り役を押し付けられるのはどうなんだ――彼らがトンズラする度に探しに出される不条理を、小橋は体育会系一年生ながら感じずにはいられない。それは多分、杉浦とて同じだろう。彼の方がもっと大変だ。上芝は練習しないと言うだけで、誰かの視界内にいるのだが、森野は本当に姿を消してしまうからだった。小橋も杉浦も、高等部に上がってから弓道を始めた初心者である。他の一年生同様、自分達も練習をしたいのに、部活時間の半分を無駄にする時もあった。
「ほら」
 学食の一角に据えられた自動販売機の前で上芝は足を止めた。ポカリを二本買って、一本を小橋に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
「これで同罪や」
 ニヤリと上芝が笑うので、小橋は思わず受け取った缶を押し戻した。「冗談やんか」と彼は、再度ポカリを渡す。それから自分の缶のプルトップを引いて一口含んだ。小橋はしばらく手の缶を見つめた後、素直に飲むことにした。体力づくりの基礎練習三昧で、身体は常に水分を求めていたからだ。
 上芝の道着の合わせには、眼鏡が差し込まれていた。落ちた衝撃で片方のレンズに大きなヒビが入っていて、細めの蔓(つる)は少し歪んでいる。直せば使えるものなのだろうかと、視力の良い小橋はそれを見た。
「先輩、コンタクトにしないんですか?」
 弓道初心者の素朴な疑問だ。引分けから会(かい)、離れと言う一連の動作に眼鏡は邪魔にならないのだろうか。弓道に限らず、どのスポーツでもハンデになることはあっても有利には作用しない。特にインターハイも狙える技量を持つと見なされる上芝なら、コンタクトにして当然だと思えるのに。
「顔にメリハリないからな、俺。それに知的に見えるやろ?」
 見慣れていないから、眼鏡のない上芝の顔は苺の乗っていないイチゴ・ショートのように、何か足りない感じはする。しかし、目の大きさはニ割り増しに見えた。
「見えるだけでしょ? マジな話、引くのに邪魔になんないんですか?」
「ならへんよ。正しい姿勢で引いたらな」
「さっき落としたじゃないですか」
「あれは…」
 上芝は何かを言いかけてやめた。代わりに「それに」と言葉を継ぐ。
作品名:放課後シリーズ 作家名:紙森けい