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フェリオス年代記996

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フェリオス年代記996 1の月 第一話 冬季行軍演習



現在、最後に立ち寄った村からすでに2日が経っており、寒さと疲れで普段はうるさいほどの連中が私語一つ無く、 兵士達は時折うんざりした様子でちらちらと降りしきる雪と空を覆う分厚い雲を見上げてさらにうんざりしながら進んでいた。

小隊の後方には4台の荷馬車とわずかな歩兵が続いており、責任者として騎士科の薔薇の騎士が隊列の最後尾から指揮を執っていた。その騎士の元へ駆け寄っていく一人の右腕に赤いリボンを巻きつけた薬学科の女性兵がいた。肩まである茶色い髪と端正な顔つきをした女性兵の駆け寄ってくる様子を見て、嫌な予感を覚えた騎士科の青年が先に声を掛ける。

「どうした?クラリーチェ」
クラリーチェは息を整え馬上の騎士を見上げながら説明する。
「歩兵科のラファエーレ君が塗れたブーツを乾かさずに履いてたみたいで、足にひどいしもやけを負って凍傷になりかかってしまっているんです、急いでお湯で暖めないといけないのでイヴァン先輩に行軍の停止をお願いしに来たんですけど・・・」一気にそこまで言うとクラリーチェは気まずそうにイヴァンを上目遣いで見つめながら返事を待つ。
「あのやろう・・・、まー、しかし俺の担当は後方隊だからさ、ラファエーレは俺の指揮下に無いし、直接隊長につたえてもらえないか?」
その答えを予想していたのか間髪を置かずクラリーチェは答える。
「医学科のヴェネリオ先輩が隊長に直接伝えると私たちまでその・・・あの・・・被害を受けるのでイヴァン先輩に伝えろとのことで・・・」
「ヴェネリオやつ・・・ったく、しょうがないなー」
「ごめんなさい」
そういいながらクラリーチェは深々と頭を下げる。 「い、いやクラリーチェは悪くないさ!!悪いのはヴェネリオ・・・いや元々はラファエーレか、だから大丈夫!わかってるから君が誤る必要は無い!」 あわててそう言うとクラリーチェは口元に手を当ててクスクスと笑う。
「ありがとうございます。先輩」
それを聞いてすこしほっとした気分でニコリとしていたイヴァンは、自分の顔の筋肉が緩んでいることに気がつきゴホンと咳払いをして 緩んでいた顔の筋肉を引き締める。
「で、いまラファエーレのやつはどこに?」
「先頭の荷馬車の荷台にスペースを空けてもらってそこにヴェネリオ先輩と一緒にいます」
「そうか、じゃあとりあえず様子を見てから考えるか。クラリーチェも荷馬車に戻るなら一緒に乗せて行こうか?」
そう言うだけ言ってみたものの「大丈夫」と言われやんわりと拒否される。近くで聞いている工兵たちが聞き耳を立てクスクス笑っているような気がするが気のせいだろうか・・・。
「じゃ、行って来る」
「はい、いってらっしゃい」 とクラリーチェに手を振って見送ってもらえたので少し気分がよくなったイヴァンだったが、工兵達に笑われたのをラファエーレ八つ当たりする気満々で馬を進ませる。実際先頭の荷馬車まではそう遠くは無い。工兵科6人に薬学科3人が自分の前を歩いているだけで、その先がもう最後尾の荷馬車なので歩いて行ってもすぐにたどり着く。
こんな距離でのせていこうか?ってさすがに無理があったな・・・余計に恥ずかしくなってきたイヴァンはさっきの件はきれいさっぱり忘れることにした。
四台ある荷馬車のうち先頭の一台にたどりつくと、荷台の上にブーツを脱いで毛布に包まったラファエーレと付き添いのヴェネリオがいた。
そこでイヴァンは馬を降りてラファエーレの元へ行くとテヘヘと頭をかきながら笑顔を返してくる。その様子をみたイヴァンは小言を言ってやろうかとおもったが、まずは患部の様子をみるのが先決とヴェネリオに向き直る。
「どんな状態なんだ?」
いつも冷静なヴェネリオはそれを聞きイヴァンを一瞥した後、表情を曇らせながらラファエーレから毛布を剥ぎ取り、足を見えるようにする。
「・・・これはひどいな」
右足は健康そのものであったが、左足の指は5本とも変色しており、素人目にも時間をおけば悪化してくるのも時間の問題だと思われた。 ラファエーレをふと見ると自分の左足の様子をみるのを嫌がったのか顔をそむけている。ヴェネリオはイヴァンがラファエーレの状態を理解するだけの時間を待った後、説明を始めた。
「あまり時間がないんだ、悪いがイヴァンから隊長に行軍停止を頼んでほしい。このまま放置すれば彼の指どころか足ごと切らなければいけなくなる」
深刻な状態にあることを理解したイヴァンは右手でラファエールの肩をつかむ。
「・・・・・・わかった。ラファエーレ、少しまってろ」
ラファエーレはそれを聞くと少し悲しそうな顔をし、小さくうなずいてからいつもの笑顔を見せてくれた。
最初は小言の一つも言ってやろうとしたが、後輩の足が懸かっているのだ。イヴァンは何も言わず小隊の先頭に向かって馬を走らせた。

先頭の4人の騎兵の元にたどり着くと、まず同じクラスの友人である騎士科2年で騎士見習いのミケーレがイヴァンに気がつき片手をあげて「ようイヴァンどうした?なにかあったのか?」 と声を掛けてきた。
「まあ、ちょっとな」と答えると、 そのやり取りを耳にした残りの騎兵も振り向く。
先頭を進んでいた斜め斧の紋章の騎士が振り返りながらフードを下げると、きれいな赤毛の長い髪が腰の辺りまでをふんわりと包み込む。
その女騎士はイヴァンの姿を認めると笑顔をみせた。
その容姿はフォッジアスの至宝とたたえられるほどの美貌であり、尚且つすさまじいほどの色気を感じさせる美声の持ち主で、その姿を見、声を聞いたものは男女かかわりなくその魂を失うとまでいわれている。
彼女は現在戦略科2年でこの小隊の隊長であり、イヴァンの上司でもあった。 その笑顔と美声でイヴァンに語りかけてきた。
「あら、イヴァン、どうかしたの?まさか、とうとうわたくしに告白でもしにきたの?」
普通の人間ならただこれだけの言葉をかけられただけでも心を奪われている所であったであろう、たしかに最初は戸惑うことも多かったがイヴァン達にはすでにその美貌と美声と軽口とその他もろもろに耐性がついていたためなんと言うことも無い。
「まさか」
と苦笑いしつつ言葉を返す。
「あら残念、でも、イヴァン卿ならいつでも大歓迎ですわよ?」
と、本当に残念そうにそう言った。
「ベルティーナ閣下にそこまで言っていただけるとは騎士として光栄の至り。ですが…きっぱりとお断りします!!」
とイヴァンが断言するとベルティーナはイラッとした様子を見せるが、小柄な少年が二人の間に割ってはいる。 「まあまあお二人とも冗談はそこまでにしてください。ベルティーナ先輩、まずはイヴァン先輩の用件を聞きましょうよ」
金髪小柄で碧眼の、さらにいえば声までもかわいいという学校中のみんなのマスコットとして有名な戦術科1年ジルベルト君♂がすかさず話を戻すと ベルティーナは素直にうなずき、まあそうねとつぶやきながら髪をかきあげる。
「えーと、ラファエーレの件なんだが」
ベルティーナはそれを聞くと思い出したような表情で言う。
「そういえば足が痛むとか言い出してたみたいで薬学のクラリーチェが連れて行ったわね」