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神飛行機

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 紙飛行機は、街の上空を飛んでいる。その飛び方は、悠々そうにも見えたが、どこか疲れが出ているようなぎこちなさもあった。ただ、それでも、飛ぶのをあきらめる様子はまったく無いようで、ある方向に向かって飛んでいる。まるで意志があるかのように……。

 ……どうやら、紙飛行機には、神様が存在しているようだ。そりゃあ、1万円札で折られたただの紙飛行機なわけであるが、今までの紙飛行機の動きや出来事から考えると、そう思ってもおかしくは無いだろう。もちろん、それを証明することはできない。今までの不幸な出来事は、人間が偶然に起こしただけのことだということを証明するほうが簡単だ。街中にあるすべての監視カメラを確認したとしても、神様が犯罪をする瞬間が映っているはずは無い。代わりに映っているのは、人間が犯罪をする瞬間だ。
 よく『神様がすべて見ていらっしゃる』と言うが、本当に見ているというのなら、監視カメラなど必要無い。現代では、神社のさい銭箱近くにも監視カメラがあり、御札じゃなくて警備会社のステッカーが神社に貼ってある……。なぜ、神社自身がそんな矛盾したことをやっているかは、私にも八百万の神々にもわからないことであろう。
 紙飛行機の神様が、現代の有り様を見て、どう思ったのかはわからないが、とりあえず天罰を与えてやろうと思ったらしい。一番最初に死んだ学生は『喧嘩を売った罪』、次に死んだスリは『盗みの罪』、その次の成金男や金の亡者たちは『拝金主義の罪』というわけである。追いかけてきたホームレスやタンクローリーの運転手などの死についてはよくわからないが、天罰を与えずにはいられない神様なのだから、何かの罪を抱いていたのだろう。

 やがて、そんな紙飛行機は、ゆっくりと降下を始めた。着陸しようとしている先には、最初に出てきた神社があった……。参拝客でまだ賑わっているのが、空からでもよくわかる。ただ、紙飛行機が向かっているのは、また誰かのコートのフードの中ではなく、特設のさい銭スペースであった。どうやら、紙飛行機は現代に疲れてしまったようで、もうさい銭として早く休みたいらしい……。
 紙飛行機は、どんどんさい銭スペースに向かって降下していき、さい銭スペースの中にある大量のさい銭が見えてきた。あのさい銭の何割かは、誰かを不幸にしたことにより得られた金であろうが、受け取る側は構わないだろう。現実的にさい銭を受け取るのは、八百万の神々ではなく神社だ。

 しかし、紙飛行機の神様には、そんなことはどうでも良かった。いくら天罰を与えても、ただむなしさが残るだけで、現代から吸わされる空気に耐えることにはつながらなかったようだ。さらに、このままでは、自分が与えた天罰に、自分が疑問を抱き始めてしまいそうな怖さもある。


 そして、さい銭スペースに、紙飛行機は静かに着陸した。疲れ果てたような様子で、紙飛行機はそこで止まっている。周囲には、さい銭が散らばっており、参拝客から新たなさい銭が追加されたり、集金係による回収で減ったりしていた。
 すると、紙飛行機は、素早く元の1万円札の姿に戻り、他のさい銭の1万円札にまぎれこんだ。なぜか、折り目も綺麗に無くなっており、まるでピン札であった。少し目を離してから、また見てみると、もうどの1万円札が紙飛行機だったのかは、もうわからなかった。

 おそらく、その元紙飛行機である1万円札は、他の1万円札と同様に、また世の中に出回ることとなるだろう。しかし、今までのことをもし知っているのなら、誰も受け取りたくないだろう……。現代では、同じ人間から与えられる刑罰だけで十分なのに、神様から一方的な天罰も喰らうのは馬鹿らしいことだからだ……。現代風にいうなら、リスク回避だ。
 『困ったときは神頼み』というが、正しくは『困ったときだけは神頼み』というわけで、それが良くも悪くも現代だ。

作品名:神飛行機 作家名:やまさん