つーはんかもしれない
「こうして気に入った場面を静止画に撮ることもできます……キレイになったな……貴子」
液晶の中で貴子が「お父さん今まで育ててくれてありがとう、二人で幸せになります」的な台詞を述べている。
「山下ぁ!」
「はい社長、僕達の結婚、お許し願えますか?」
社長は、胸ポケットから一枚の紙を出して、山下の眼前につきつける。
「これを見ろ!」
山下、固まる。
「調べたよお前の経歴を……お前、犯罪歴があるじゃないか!」
押し黙ったままの山下。
「見ろこの紙に書かれた文字を!細かい字までばっちりスキャン!富士痛のステキャンナップ2000ならどんな書類もあっという間に電子化できる」
「……社長、自分がこうして立ち直れたのも、貴子さんの支えがあったからなんです。確かに昔過去に僕は、或る犯罪を犯して刑に服していました。でも今は……貴子と二人で」
「黙れ!」
沈黙。
「お、お前なんかに娘はやれん!妻もきっと――産後の肥立ちが悪く、貴子を産んですぐに他界してしまった妻もきっと、そう思っているはずだ!再婚もせずに男手一つで貴子を育ててきた私の気持ち、私の……うう……私の気持ちがお前に分かってたまるか!」
悔し涙に塗れつつ社長、次に紹介するはずだった包丁を手に取る。
「どんなお肉もスパッと切れる超高級ステンレス製穴あき包丁『万能包丁 関ノ穴光』、最新の金属を惜しげなく原材料として使い、昔ながらの伝統的製法で丹念に作り上げられた正に名刀と呼ぶに相応しい一振り、お前なんゾに貴子を嫁にやるくらいなら、いっそこいつで、お前の肉を実演斬りしてやるっ!」
「しゃ、社長ぉ……落ち着いてください」
そう言いつつ、思わず山下が手に取ったのは……
「どんな高い枝もスパスパ切れる。防錆加工でいつまでも切れ味そのままに、高級高枝切りバサミのご紹介です。止めてください社長」
「山下ー!」
社長は穴あき包丁を小脇に構えると山下に突進していく
ドン!
「や……山下……」
「社長……社長ぉおおおおおー」
山下の手に握られた、高枝切りバサミ、社長の胸深くに刺さり、血が止めどなく溢れ出る。
山下、とっさに手近にあった「うっかりこぼしても慌てないで!そんな時にはコレ!なーんでも吸い取っちゃう万能吸収スポンジタオル、吸い取るク~ン」を、社長の胸にあてがう。
「いいんだ山下……もう私は……最後に、最後に貴子の花嫁姿が見たかったよ」
――貴子を頼んだゾ。
ガクッ。
「こーんなドラマ。どうせなら大画面で楽しみたいですよね。今日最後にご紹介するのはこちらのテレビ!迫力の80インチプラズマ液晶テレビ、アクヲス80hdです。ほら観てください、細かい血しぶきの一滴一滴までくっきり映っているでしょう……」
作品名:つーはんかもしれない 作家名:或虎