つーはんかもしれない
「さて次にご紹介いたしますのは、こちらの商品」
TVモニターに、画面狭しとデカデカ映し出される電子辞書。
「丸丸社製、電子辞書、Siraべる蔵2012です」
再び商品のアップ、そして大きく商品名のテロップ。
深夜の通信販売番組。司会進行は、通販会社の社長御自ら。その独特な語り口、立板に水の速射talkにて、商品の特徴や支払いプラン、購入特典などが淀みなく紹介されていく。
「見てくださいこのボデー。ちーさいでしょう?この小さなボデーになんと和英辞典、英和辞典、国語辞典、漢和辞典、仏語辞典、独語辞典、などなどたくさんの辞典がキュンと凝縮して入っているんです!」
社長、手のひらに乗せた電子辞書をカメラに向け、やや前かがみの姿勢。目線はカメラと電子辞書をいったりきたりしながら口角泡を飛ばし、熱心に商品のセールスポイントを訴え続ける。
「驚くのはまだまだ早いんです。こちらのSiraべる蔵2012には今までに無いすごい機能が付いているんです。それは音声認識機能!調べたいことをSiraべる蔵に向かって話しかけるだけで自動的に音声を認識して調べたい内容を画面に表示してくれんです。ちょっとやってみましょう」
実演。英語で話しかければその日本語訳が画面に出る。日本語で話せば漢字に変換され画面に表示される。
「どんな問いかけにも対しても、誰からの質問でも、Siraべる蔵はちゃんと答えてくれるンです。ちょっと山下君!」
アシスタントの若い男性社員、社長に手招きされて颯爽と現れる。
「では山下君。何でもいいからこのSiraべる蔵に話しかけてみてもらえるかな?」
「分かりました」
社長の持つ電磁辞書に向かって山下君が話しかける。
「では和英辞典を試して見ますね……青天の霹靂」
「お、山下君。いきなりの難門だねー。さぁ……でもこんなに難しい慣用句でもSiraべる蔵ならば即座に……」
a bolt out of the blue
と画面に表示された。
「どうです!すごいでしょ!こんな難しい言葉でも一発で英語に変換してくれましたねー。じゃあ山下君もう一度なんでもいいからしゃべってみて」
「はい、では……えへん……娘さんを僕にください」
…………
画面には何も表示されない。
「山下くーん。だめだよちゃんとSiragべる蔵に向かって話しかけないと。もう一度」
「娘さんを僕にください」
「……山下君!だめだって、私のほう見ながら喋べっては。ちゃんとSiraべる蔵に向かって喋らないと……」
「娘さんを僕にください!」
「山下君?」
「社長!」
山下は社長から1mmも目をそらさない 。
「社長!お願いです!どうか僕に娘さんをください……貴子さんを……娘さんをください」
「山下……」
社長の表情が強張る。
山下がお辞儀しながら話したためか、Siraべる蔵は彼の音声を拾ってしまい画面に。
Please give me your daughter.
と英訳が表示される。
「山下!おまえこれ、生放送だぞ……一体どういうつもr」
「分かっています社長!どうしても貴子と結婚したいんです。どうか僕達の結婚を認めてください!お義父さん」
画面に。
Please accept my marriage if you please! The father-in-law
「ちょ……ちょっとカメラ止めて……え?止めれない……山下……おまえいくらなんでも生放送で結婚を認めろとか……おまえ……」
「社長お願いします」
「ふざけるなー」
社長の怒り爆発。さっきまで大事そうに手に乗せていた丸丸社製電子辞書Siraべる蔵を力いっぱい床に叩きつける
「山下ー!どういうつもりなんだ!一体!生放送中になんてこと言い出すんだ。この番組を見てくださっている視聴者の方々に対して失礼だと思わないのかー?」
あまりの社長の剣幕にたじろぐ山下……ちらりと目にしたのは床に叩きつけられた電子辞書。察して社長。
「大丈夫だ山下。Siraべる蔵はメーカーによるハードな落下試験をクリアした対衝撃構造になっている……山下いつからだ?……いつから娘とつきあっている?」
山下が時計を見る。社長、それを見咎める。
「バックライト機能付きで暗いところでもよく見えるエセコー社製腕時計BLT-24。限定1000台今なら分割手数料はすべて当社が負担します!なんて見てる場合か!答えろいつから娘とつきあってるんだ?」
「3年ほど前です社長」
「3年……その時計の保障期間と同じじゃないか……メーカー保障期間は本来1年だが、当社独自のサービスで2年間無償で延長した保障期間と……」
呆然とする社長。
「社長、お願いします。実はもう結婚指輪も買っているんです」
そう言って山下がポケットから出した小箱を開ける
「そ……それは創業70年銀座に本店を構える老舗、宝石貴金属のマツ屋のプレミアムマリッジリング――おしげもなく豪華にちりばめられたダイヤモンドが二人の愛を末永く見守ります……現金で買ったのか?」
「いえ分割ですが……当社の通販で購入したので」
「じゃあ分割手数料は……」
「はい、もちろん無料です」
「無料ではない!そりゃあ確かにお前の払う分割手数料は無料だが、それはうちの会社、ひいては私が負担しているからなんだぞ!」
「はい……分かっております」
「まさかお前、『式の日取りも決まってます』とか言いだすんじゃないだろうな?」
山下は懐からシステム手帳を取り出す。社長驚く。
「そ、それは……」
「はい、コンパクトサイズでもあなたのビジネスライフをしっかりサポートしてくる多機能システム手帳『リフィール』です。式の日取りまではさすがにまだ決めておりません……それよりもまず社長にこの結婚を認めて頂くことが先決だと思いまして。お願いします。僕達の結婚を認めてください。必ず貴子を幸せにします。そして二人いつまでも偕老同穴のごとく添い遂げますから」
「偕老同穴……山下、ちょっと待て」
社長は、先程床に叩きつけた電子辞書、Siraべる蔵を拾い上げると。
「偕老同穴」
と話しかける。
「……一回の充電で12時間以上稼動するスタミナバッテリー搭載だから使う場面を選びません……なるほど……偕老同穴……そういう意味か……おい、山下!この結婚について、貴子はなんと言ってるんだ?」
「社長、見てください」
山下、やおらビデオカメラを取り出す。
「撮ってすぐ観たーい!そんな貴方におすすめなのが、こちらのビデオカメラ、シャーラップ製ビデオカメラVDO-5です。社長、貴子さんから社長宛てのメッセージが入っています」
山下の手からもぎ取るようにして、ビデオカメラを奪うと画面を覗き込む社長。
「液晶部分が大きいから撮った動画の確認作業もとてもスムーズ……そして動画を再生中に……」
ボタンを押す。
TVモニターに、画面狭しとデカデカ映し出される電子辞書。
「丸丸社製、電子辞書、Siraべる蔵2012です」
再び商品のアップ、そして大きく商品名のテロップ。
深夜の通信販売番組。司会進行は、通販会社の社長御自ら。その独特な語り口、立板に水の速射talkにて、商品の特徴や支払いプラン、購入特典などが淀みなく紹介されていく。
「見てくださいこのボデー。ちーさいでしょう?この小さなボデーになんと和英辞典、英和辞典、国語辞典、漢和辞典、仏語辞典、独語辞典、などなどたくさんの辞典がキュンと凝縮して入っているんです!」
社長、手のひらに乗せた電子辞書をカメラに向け、やや前かがみの姿勢。目線はカメラと電子辞書をいったりきたりしながら口角泡を飛ばし、熱心に商品のセールスポイントを訴え続ける。
「驚くのはまだまだ早いんです。こちらのSiraべる蔵2012には今までに無いすごい機能が付いているんです。それは音声認識機能!調べたいことをSiraべる蔵に向かって話しかけるだけで自動的に音声を認識して調べたい内容を画面に表示してくれんです。ちょっとやってみましょう」
実演。英語で話しかければその日本語訳が画面に出る。日本語で話せば漢字に変換され画面に表示される。
「どんな問いかけにも対しても、誰からの質問でも、Siraべる蔵はちゃんと答えてくれるンです。ちょっと山下君!」
アシスタントの若い男性社員、社長に手招きされて颯爽と現れる。
「では山下君。何でもいいからこのSiraべる蔵に話しかけてみてもらえるかな?」
「分かりました」
社長の持つ電磁辞書に向かって山下君が話しかける。
「では和英辞典を試して見ますね……青天の霹靂」
「お、山下君。いきなりの難門だねー。さぁ……でもこんなに難しい慣用句でもSiraべる蔵ならば即座に……」
a bolt out of the blue
と画面に表示された。
「どうです!すごいでしょ!こんな難しい言葉でも一発で英語に変換してくれましたねー。じゃあ山下君もう一度なんでもいいからしゃべってみて」
「はい、では……えへん……娘さんを僕にください」
…………
画面には何も表示されない。
「山下くーん。だめだよちゃんとSiragべる蔵に向かって話しかけないと。もう一度」
「娘さんを僕にください」
「……山下君!だめだって、私のほう見ながら喋べっては。ちゃんとSiraべる蔵に向かって喋らないと……」
「娘さんを僕にください!」
「山下君?」
「社長!」
山下は社長から1mmも目をそらさない 。
「社長!お願いです!どうか僕に娘さんをください……貴子さんを……娘さんをください」
「山下……」
社長の表情が強張る。
山下がお辞儀しながら話したためか、Siraべる蔵は彼の音声を拾ってしまい画面に。
Please give me your daughter.
と英訳が表示される。
「山下!おまえこれ、生放送だぞ……一体どういうつもr」
「分かっています社長!どうしても貴子と結婚したいんです。どうか僕達の結婚を認めてください!お義父さん」
画面に。
Please accept my marriage if you please! The father-in-law
「ちょ……ちょっとカメラ止めて……え?止めれない……山下……おまえいくらなんでも生放送で結婚を認めろとか……おまえ……」
「社長お願いします」
「ふざけるなー」
社長の怒り爆発。さっきまで大事そうに手に乗せていた丸丸社製電子辞書Siraべる蔵を力いっぱい床に叩きつける
「山下ー!どういうつもりなんだ!一体!生放送中になんてこと言い出すんだ。この番組を見てくださっている視聴者の方々に対して失礼だと思わないのかー?」
あまりの社長の剣幕にたじろぐ山下……ちらりと目にしたのは床に叩きつけられた電子辞書。察して社長。
「大丈夫だ山下。Siraべる蔵はメーカーによるハードな落下試験をクリアした対衝撃構造になっている……山下いつからだ?……いつから娘とつきあっている?」
山下が時計を見る。社長、それを見咎める。
「バックライト機能付きで暗いところでもよく見えるエセコー社製腕時計BLT-24。限定1000台今なら分割手数料はすべて当社が負担します!なんて見てる場合か!答えろいつから娘とつきあってるんだ?」
「3年ほど前です社長」
「3年……その時計の保障期間と同じじゃないか……メーカー保障期間は本来1年だが、当社独自のサービスで2年間無償で延長した保障期間と……」
呆然とする社長。
「社長、お願いします。実はもう結婚指輪も買っているんです」
そう言って山下がポケットから出した小箱を開ける
「そ……それは創業70年銀座に本店を構える老舗、宝石貴金属のマツ屋のプレミアムマリッジリング――おしげもなく豪華にちりばめられたダイヤモンドが二人の愛を末永く見守ります……現金で買ったのか?」
「いえ分割ですが……当社の通販で購入したので」
「じゃあ分割手数料は……」
「はい、もちろん無料です」
「無料ではない!そりゃあ確かにお前の払う分割手数料は無料だが、それはうちの会社、ひいては私が負担しているからなんだぞ!」
「はい……分かっております」
「まさかお前、『式の日取りも決まってます』とか言いだすんじゃないだろうな?」
山下は懐からシステム手帳を取り出す。社長驚く。
「そ、それは……」
「はい、コンパクトサイズでもあなたのビジネスライフをしっかりサポートしてくる多機能システム手帳『リフィール』です。式の日取りまではさすがにまだ決めておりません……それよりもまず社長にこの結婚を認めて頂くことが先決だと思いまして。お願いします。僕達の結婚を認めてください。必ず貴子を幸せにします。そして二人いつまでも偕老同穴のごとく添い遂げますから」
「偕老同穴……山下、ちょっと待て」
社長は、先程床に叩きつけた電子辞書、Siraべる蔵を拾い上げると。
「偕老同穴」
と話しかける。
「……一回の充電で12時間以上稼動するスタミナバッテリー搭載だから使う場面を選びません……なるほど……偕老同穴……そういう意味か……おい、山下!この結婚について、貴子はなんと言ってるんだ?」
「社長、見てください」
山下、やおらビデオカメラを取り出す。
「撮ってすぐ観たーい!そんな貴方におすすめなのが、こちらのビデオカメラ、シャーラップ製ビデオカメラVDO-5です。社長、貴子さんから社長宛てのメッセージが入っています」
山下の手からもぎ取るようにして、ビデオカメラを奪うと画面を覗き込む社長。
「液晶部分が大きいから撮った動画の確認作業もとてもスムーズ……そして動画を再生中に……」
ボタンを押す。
作品名:つーはんかもしれない 作家名:或虎