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月姫

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『月姫』

月がなかった頃のお話です。

むかしむかし、あるお城に、おとなしくて優しいお姫様が住んでいました。
お姫様は、何不自由なく暮らし、きれいな服を着て、美味しいものを食べて、
お城の庭の色とりどりの花を見ながら、毎日を平和に過ごしておりました。
そして、お姫様の一番楽しいひと時は、遊びに来る小鳥たちや、
庭の池の魚たちとのおしゃべり、それから、愛犬ジェニーとのお散歩でした。

お姫様は、いつも一人ぼっちで遊んでいました。
なぜなら、お姫様にはお友達が一人もいなかったからです。
まわりは皆大人ばかり。
お姫様の言うことを、すべて聞き入れてくれる優しい人たちばかりですが、
お友達ではありません。
お姫様は、ずっとずっと、お友達がいないことを寂しがっていました。

お姫様は、父である王様と母であるお妃様に、
友達を作ってくれるようにお願いしました。
王様とお妃様は、戸惑いながらも、少し考えて言いました。
「それならば、お父様とお母様と3人で、お庭でピクニックでもしましょう。」
お姫様は、「お父様もお母様も大好きです。でも、私たちは親子です、
友達ではありません。」と、泣き出してしまいました。

お姫様には、兄弟姉妹もおらず、
その上、同じ年頃の子供たちとの交流もないので、
こんなにも寂しがるのだろうと、
たいそう不憫に思った王様とお妃様は、召使いたちに命じて、
お姫様の友達探しをさせることにしました。

召使たちは、お姫様の友達を探す方法を、いろいろ考えましたが、
なかなか良い方法が浮かびません。
お姫様の友達なので、品格の悪い子供ではいけません。
上品でつり合いのとれる友達でなくてはなりません。
そこで、街の噂を聞き、いろいろな情報を集めて、
調査をした後で、スカウトすることに決めました。

召使たちは、町中、あちこち探しまわり、ようやく
お姫様によく似た、優しくて、たいそうおとなしい少女を探し出してきました。
その少女に、お姫様の友達になるようにと言いつけ、
お給料をあげる約束をしました。
断ることもできない少女は、お友達の役割を引き受けました。

その次の日、少女はお城に迎えられ、お姫様と会いました。
お姫様と少女は、どちらも大変おとなしいので、
ふたりとも、何を話せばいいのかわかりません。
お友達契約は、一日3時間なので、ふたりは無言で向き合ったまま、
話すこともせず、遊び方もわからない様子で、
時計の秒針の音を聞きながら、長い3時間を過ごした後、少女は帰って行きました。

召使たちは、即、少女をクビにし、次の友達を探し出しました。
今度は、活発な行動的な少女にしました。
その少女は、喜んで給料アップを交渉し、お城に向かいました。

今度の少女は、お姫様と会った途端、すぐにお姫様の手を取って遊びだしました。
しかし、少女にとっては、初めて見るお城の中など夢のようで、
ついつい無我夢中になってしまい、お姫様の洋服ダンスの中も勝手に開け、
次から次へと試着したり、お姫様のおもちゃを優先して遊んだり、
お城の中を冒険したりして、あっという間に3時間が過ぎてしまいました。
気が付くと、少女は、お姫様のことを、すっかり忘れてしまって、
自分ひとりだけで楽しんでいました。
なので、3時間後、召使たちに追い出され、もちろん、少女はクビになりました。

3人目の少女は、頭の良い、落ち着いた3つ年上の少女が、選ばれました。
少女は、お姫様と上手に接することができました。
一緒に本を読んだり、愛犬ジェニーを連れて庭を散歩したり、
お姫様の気持ちを優先して行動し、退屈させないように遊びました。
そして、少女の体験話や、いろんな街での話を聞かせました。
お城の中しか知らないお姫様にとっては、
まるで冒険のようなお話だったので、もうすっかり気に入ってしまい、
毎日、少女の話を聞くのが楽しみになってしまいました。

いつしかお姫様は、この少女が姉のような気がして、
段々心をゆるし、甘えるようになっていきました。
だから、お姫様は、少女が来るのが待ち遠しくてたまりません。

友達とは、こんなに素晴らしいものなのか。
人生が180度変わり、生きていることの喜びを知ることができ、
毎日を笑顔で過ごせる充実した心を持てる、何と素敵なもの。
初めて、友達のできたお姫様は、この少女と、もっと仲良くなりたくなりました。
そして、この少女を、もっともっと知りたくなりました。

ある日、少女が友達の役目を終え、帰り支度をし始めると、
お姫様は、コッソリと抜け出し、準備してあった町娘の服に着替え、
少女の後をつけていきました。
少女は、お城でもらった給料で、パンを買い、家に帰って行きました。

少女の家は、小さなみすぼらしい家でした。
小さな弟や妹がいるようで、帰ってきた姉を慕って、喜んで出迎えていました。
家の中では、明るい笑い声が聞こえ、少女の弾む声も混じっていました。
「本当にありがとう。あなたのおかげで、家計が助かるわ。」
少女の母らしい声が聞こえました。
「いいのよ。私頑張るから。今度の仕事は、結構向いているから楽しいのよ。
気に入られているようだから、給料も上がるかもしれないわ。」
少女の声がしました。

それから、少女は、少しパンを抱えて、外に出て行きました。
慌てて、近くの看板の陰に隠れたお姫様は、また、少女の後を追いました。
少女は、街角の公園にいる、同じ年恰好の子供たちのそばに行きました。
「お帰り」
「お疲れ様」
皆、一斉に少女を笑顔で出迎えます。
「パンの差し入れよ。一緒に食べましょう。」
皆、喜んで少女のそばに寄ってきて、ワイワイ話ながら食べています。
そのあと、公園で遊びだしたのを見て、お姫様はお城に戻りました。

少女は、お姫様にとっても魅力的でしたが、
他の子供たちの間でも、人気者のようでした。
家族にも愛されている様子で、とても輝いてみえました。
お姫様は、ますます、この少女のことが大好きになってしまったのです。

次の日、少女がお城に着くや否や、待ち構えていたお姫様は、
頬を上気させながら言いました。
「ねえ、私を、あなたの友達たちの仲間に入れて。」
昨日、公園で遊んでいる少女たちを見ていたお姫様は、
少女だけでなく、その仲間たちとも友達になりたくなったのです。
大勢で、ワイワイ騒いでみたくなったのです。

少女は、ちょっと考えました。
お姫様は、優しくておとなしくて、とてもいい人です。
少女もお姫様と話したり遊んでいたりすると、とても楽しいです。
でも、お姫様はお姫様です。
私たち町娘とは違います。
お友達に、少女から頼めば、お姫様を仲間に入れてはくれるでしょう。
でも、今までどおりの雰囲気とは、必ず違ってきます。
皆、すこしずつ我慢をしなければなりません。
何て言ったって、お姫様なのですから。

少女には、友達の困った様子が目に見えるようにわかりました。
そして、そんな空気を、このお姫様は、きっと感じ取るでしょう。

それに、少女は、友達とは、今までどおりに付き合いたいと思いました。
お姫様のことは好きですが、少女にとっては、この友達役は仕事でした。
作品名:月姫 作家名:mika