フィルムの無い映画達 ♯02
三分間キャシーング
「まずポテトの皮を剥きます」
「はい、先生皮剥きのコツなどありますでしょうか?」
「そうですね、ホワイトボードにボードマーカーで書いた文字を消す感じで、軽く触れただけですっと簡単に剥けたらいいなど思いながらやると気が紛れます」
「なるほど」
「そして剥いたポテトをお湯の入ったお鍋に入れます。この時躊躇してはいけません。絆創膏を剥がす時のように一気に……」
「先生、私絆創膏はじわじわ剥がす派なんですが」
「そうですか、でも一気に剥がしたほうが痛みは一瞬で済みますし、異性から見て、あぁ潔いなと好感が持たれます、じわじわやってるとみみっちい感じがしますね」
「なるほど」
「ですからポトテは一思いにお鍋に入れましょう。じわじわ入れるとポテトさんも熱いですから」
「分かりました。ではお次はどういたしますか?」
「はいお鍋に入れたポテトさんをじっくりと煮込みます。沸騰するでもなく、弱火でもない、逆にその辺の温度が一番きついんじゃないかという温度を心がけてください。」
「ポテトさんはたまったもんじゃないですね」
「ポテトさん?ポテトごときにさん付けですか?こんな何処の畑で取れたかも分からないイモ野郎本来なら身がぐずぐずになるまで煮込んでやればいいんです。でもここは怒りを堪えて微妙な温度でじわじわ嬲るように煮てみましょう。ニヤニヤと半笑いで」
「こうですか?」
「もっと蔑むような笑みを浮かべてください。下着泥を見るような目で」
「先生こういう目ですか?」
「私を見ないでください!私はやっていません」
「失礼しました」
「ポテトのクソ野郎……イメージ的には、ポテトが頭からパンティをかぶってる所を想像してみてください。どうですか?」
「最低ですね……敢えて言わせてもらいますが、先生のその発想も含めて」
「侮辱ですか?」
「いいえ、たしなめようと思いまして」
「いいでしょう、で茹で上がったこのほっくほくのポテト様をですね。恭しくお鍋から出してあげてください」
「恐惶謹言」
「そのフレーズいただき!でこのポテト様をボールに移しまして、布巾を被せます。しく……しくしく」
「泣いてるんですか?」
「ちょっと……おじいちゃんが死んだ時のこと思い出しちゃって……」
「一旦テープ止めますか?」
「いえ続けます。ふふふ。で布巾を被せたポテトをこぶしで、せいやーー」
「うわっぷ……せ、先生、ポテト様の残骸が飛び散ってきましたが……」
「テメェにですか?」
「はい、私にです」
「で?」
「いえ、なんでもないです」
「今日はその飛び散ったほうのポテトを使って、料理を作りたいと思いまーす」
「先生、捨ててしまいました」
「ではまた来週」
作品名:フィルムの無い映画達 ♯02 作家名:或虎