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即興小説集

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(1時間/お題:頭の中の場所/解離性同一性障害)

誰もいない自室で一人静かに目を閉じる。
僕をいじめる両親は現在外出中だ。帰ってこなくていいのに、と心の中で悪態をつきながら、僅かな平和のひと時を噛み締める。

「ねぇ、いるんでしょ?出ておいでよ」

自分以外に人気のない部屋の中でぽつりと空中に言葉を漏らす。
肉体は持っていないけど確かに存在する彼はあくび交じりに返事をした。

「なんだよ、寝てたのに」
「暇なんだ。折角誰もいないんだし、一緒に遊ぼうよ」

姿は見えない。でも声は聞こえる。
彼は僕が作り出した人格で、自分自身であり唯一無二の友達。
両親に虐待されていることを包み隠さず打ち明けられる、心のよりどころだ。

「遊ぶったってどうすんだよ。俺にできることなんて、話しかけることぐらいだぞ」
「それでも楽しいよ」
「それって遊びに入るのか?」

彼の返答に自然と笑いが漏れる。
何を言っても怒らないし、邪険にもしない彼と話すのはとっても楽しかった。
彼は体を持たないのでコミュニケーション方法は限られているが、それでも充分満足している。
彼がいれば何もいらないとすら思えるほどだった。

「それよりお前、ここんところ体調悪いんだろ?こんなことしてないでさっさと寝ろよ」
「大丈夫だよ。寝てるよりこうして話している方が体が楽なんだ」
「ふーん。じゃあいいけどさ」

僕を気遣ってくれる彼の優しさに、胸がぽかぽかと暖かくなった。
彼と体を共有しているおかげで隠し事は一切出来ない。
常に両親に嘘を突き通している分、それが本当に気楽だった。

(パパやママに具合が悪いなんて言ったら、またひどいことされちゃうんだろうな……)

そう考えただけで、体中の傷がズキズキと痛んだ。
ぎゅっと傷口をおさえていると、不意に外から話し声が聞こえてきた。
パパとママだ。もう帰ってきたんだ……。
溢れ出そうになる涙を必死にこらえている僕に頭の中の彼は何も言わず、ただ静かに立ち去っていった。


****


明かりが一切ない真っ暗闇の中で、急な激痛に目を覚ます。
今まで負った傷が一斉に痛み出したらしい。体のあちこちで激痛が発生している。
今日だけじゃない。ここ最近はずっと痛みに耐える日々が続いている。
「うぅ……」と両親に聞こえないようなるべく小さな声で呻いていると、彼が声をかけてきた。

「おい、大丈夫か?」
「んっ……だいじょうぶ……」
「嘘つけ。見るからに駄目だろうが」

脳内で「はぁ……」と彼のため息が漏れる音が響く。
隠し事が一切通用しない彼に嘘をついても無駄だということはよく分かっている。
それでも、一番言いたい一言を告げた途端、僕は両親に殺されてしまうかもしれないという恐怖には逆らえなかった。

「お前が助けを求められないのは俺だって理解してる。でも、俺はどうしてもその一言が聞きたい」
「…………」
「頼むよ。お前が言ってくれなきゃ、俺はどうすることもできないんだよ……!」

いつになく泣きそうな彼の言葉に心が揺れ動く。
肉体のない彼に助けを求めても、きっと何か変わるわけでもないんだろう。
だって彼は僕が作った幻想で、非実在の人物だ。
でも、だからこそ、彼に縋り付いてもいいのではないか。
彼に本心を打ち明けても状況は変わらない。つまり、両親に隠し通せられるんだから。

勇気を振り絞り、震える口でずっと言いたかった言葉を告げる。
「助けて」。待ち望んだ言葉を聞いた彼は、ふっと静かに微笑んだ。

「うん、助けるよ。俺がお前を助けてやる」

ふわりと一瞬中に舞うような感覚に襲われたかと思えば、自分の意思に背いて体が勝手に起き上がった。
えっ、どういうこと!?と発言しようとするが、何故か口すら動かせなかった。
突然の出来事に混乱する僕に対し、頭の中でしか存在しなかったはずの彼が声を発した。

「今までよく頑張ったな。そろそろ交代する時だ」

「ゆっくり休めよ」と空気を震わせ言葉を漏らす彼の声が染み渡ったかと思えば、眠りにつく寸前のような感覚が僕を襲った。
君が僕の代わりになろうとしているの?そんな、嫌だよ。君にまで痛い思いをさせるのは、絶対嫌だよ!
そんな思いとは裏腹に、睡魔は僕をすべて飲み込んでしまった。
意識を手放す前に見たものは、彼が刃物を握り締めて両親のいる部屋へと向かう光景だった。
作品名:即興小説集 作家名:凛子