次男の初恋
慎二が写真の専門学校に合格して慌ただしく家を出て行き家はひっそりとした。
空部屋となった慎二の部屋はいかにも男の子らしい雑然とした
もので足の踏み場もないような有様だった。
ふと、本棚に目を留めると数冊の写真集が目についた。その中の一冊を
手にとってみた。それは小学校から中学まで熱中した空手とボクシングの
写真が主だったがページをめくっていくと中学3年の時の担任だったあの
女教師のスナップ写真が何枚も貼ってあった。デジカメでこっそり隠し撮った
のか不自然なアングルやピンボケが大半であったが中には運動会と思われる
真近からの顔のアップもあった。なにか真司の秘密に触れたような気がした。
さらにパラパラとめくっていると何かがポトリと床に落ちた。
拾い上げてみるとそれは白い角封筒で慎二君へ、先生よりと書かれていた。
切手が貼っていないところを見ると直接手渡されたのかもしれない。
何回も読み直したのだろうか、少し薄汚れたような感じで角も崩れていた。
どうしょうか、一瞬迷ったが好奇心に勝てず封筒から中を抜き出した。
便箋2枚に楷書ではなく草書の達筆な女文字で書かれた手紙だった。
慎二君卒業おめでとう。そして高校合格おめでとう。
本当によかった、先生は心からそう思います。
3年生の担任と決まりそして君のクラスを受け持つと知った時、正直言って
先生は憂鬱な気分でした。だって君は学校で一番の問題児として有名でした。
ケンカが強くていつも手下を2,3人引き連れて学校をのし歩いていましたね。
学校の男子生徒のグループが他校の生徒とケンカをして負けたのを知った君は
一人で出掛けていき全員を相手に大暴れをしたこともありました。
また、近くお店の放置バイクを乗り回し転倒してケガをした事もありましたね。
その度にお父さんは学校に呼び出されて校長先生と話し合われていました。
お母さんのいない家庭だったのでお父さんは大変だったと思いますよ。
喧嘩騒動の後、先生と君は教室で話し合いましたね、お父さんを悲しませる事
だけはもう絶対にしないと君は先生に誓ってくれました。その約束を君は守って
くれました。一年間、あれやこれやで君には随分振り回されたこともあったけれ
ど君はただ乱暴するだけの少年ではななかった。君は弱い者をいじめるような
事は絶対にしなかったし他の男子生徒にいじめられているところを君に助けられ
た生徒も何人も居ることを先生は知っています。また先生をからかったり嫌がら
せをするする男子生徒をいさめてくれていた事も知っています。先生は君に直接
言ったことはないけれどとても嬉しかった。
君の先生を見る目には時々ドキッとするものがありました。
先生の直感だけど、ねぇ、慎二君、君は先生が好きだったんでしょう?
君はこれから高校に行きそしてさらに大学に行くかも知れません。そして
その間に一人や二人彼女もできるでしょう。きっと先生よりももっともっと
素敵な女性を見つけることでしょう。その彼女を大事にして幸せになって下さい。
本当の事を言えば先生も慎二君のことが好きでした。慎二君、さようなら元気でね。