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D.o.A. ep.44~57

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――――その時。
茹だるような暑さの中、不意に神経にさわった冷たい感覚があった。
ざわざわ、と背筋が粟立つ。とっさに先行くジャックの襟首を引っつかんで、そのまま強引に地を蹴った。
瞬間、音もなく大きな何かが、寸前まで彼らがいた地点へ飛びかかって来る。地面がえぐりとられる。
「うわッ!な、なに?なんなん!」
「………」
背中を強打し、痛みと驚きで目を白黒させているジャックを尻目に、その巨体をの正体を視認する。

金のたてがみ、金の毛並み、琥珀の瞳。
それは、見たことがないほど凛々しかったが、確かに獣だった。
(…魔物?)
威嚇するように低くうなりながら、ゆったりと緩慢な動作でこちらへ向き直り、黄金の獣は前身をわずかに下げる。
四つ足のうつくしい毛並みの生き物が、こちらを睨み据えてくる。
平時であれば、見惚れるほどの姿だったが、すべてを拒むような敵意が見えるようだ。
ライルは腰にある得物に頼るべく柄に触れる。

「ソル…」

不意に、背後で、呟きが漏れた。
「?!」
ジャックは痛みに顔をしかめつつ腰を上げ、金色の獣へと近寄っていく。
この一人と一匹は顔見知りであったのか。
しかし彼とは違い、相手は少しも態度を軟化させることなく、白い牙を剥いて、全身で、近寄るな、といっている。
「ソル!」
さっきから呼んでいるそれは、あの獣の名前なのだろうか。などと疑問に思っている場合ではなかった。
一体何をするつもりだ、などと傍観しかけていたことにハッとし、手を伸ばす。
ふらふらと無防備に歩み寄っていくジャックの襟首を再び手繰り寄せるのと、獣の前足の爪が彼の前髪を掠めていったのは、ほぼ同時だった。
そのまま、彼の身を自分のもとへ引き寄せ、胴を抱え上げると、獣に背を向け一目散に逃げ出した。
脇腹の位置でジャックがなにやらわめいているが、知ったことかとばかりに全力で駆け抜ける。







気付けば森を出て、海岸までたどり着いていた。

背後を確認したが、追っては来ないようだ。ひとまず安堵して、呼吸を整えていく。
ついでに砂浜へ、脇に抱えていた体をどさりと落とした。
「ら、乱暴やなぁ…」
「あんな猛獣に、なにふらふら近寄ってる!ばか!」
「だってアイツは…」
「あんなのがいる島にいつまでもいられるか!おちおち寝られん!俺はなんとしてでもこの島から出るぞ!」
何か言いたげに口を尖らせる彼をさえぎってがなり立てる。
ついさっき、永住の覚悟を固めていたというが、あんな猛獣の生息を知ってなお揺らがなければ、この男は存外に大物かも知れぬ。
だがバカには違いなかった。

「…あんた本当に危なっかしい。よく1ヶ月生き延びてたな」
「ハハ、そりゃ、食いモンと水あれば、人間何処でも生きられるやん。
…まあ、これで食料とか道具とか置いたる隠れ家には、近寄れんようになったけど」

ぐー。
再び腹が泣く。今度は二人分の音が重なっている。

「…おなか減った…」
「あー…せっかく備蓄しといたのにい…また集めなあかんのか…あー」

そして、二人で砂浜に仰向けに倒れた。


作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har