D.o.A. ep.44~57
(どういうことや…)
騒ぎ疲れてみなが寝静まっても、ジャックだけは眠りにつくことができない。
(あいつが…宝石って…なんかの間違いやろ)
確かに美しい黄金のようだが、レオンハートはどこからどう見ても、無機物ではありえない。
温度があり、毛並みがあり、心のある、生き物だ。
寝返りをうつ。
金色の、太陽のようなたてがみ。颯爽と地を蹴る四の脚。
今まで出会った中で、もっとも力強くうつくしく、誇り高い生き物だった。
あれは、人間の手にかかっていいようなけだものじゃない。
大切な仲間とあれが争うところも、見たくないのだ。
「……あかん。寝れん」
疲れるまであたりをぶらつこう、と身を起こした。
あてどなく足をすすめていると、気づけば、自分が流れ着いた浜辺にたどりついている。
「……ソル」
そして、月明かりだけが照らす夜の黒い海を臨む、焦がれた黄金の背を見つけたのだ。
なんとなく、なんて、きっとウソだ。
きっと自分は、この獣を求めて歩いていたのだと確信する。
それはゆっくりと振り返り、ジャックを見ている。
睨んでいるのか、なんとはなしに眺めているだけなのか、いまいち判断つきかねた。
「…いや、レオンハート、やったな」
ライルはこれが人語をしゃべるといっていたが、ジャックはそれを聞いたことがなかった。
話したいな、と。
無性に、切なくなった。
そばへ行きたいけれど、それを許されるだろうか。
願いと認識が、ずれている。
そばへ行きたいのに、あれだけふらふら動いてくれた足が、動かない。
となりにならぶコトなど、他でもない自分が許したくないらしい。
こうして波のさざめく音だけの時間を、同じ場所ですごす。
それだけで、きっと奇跡のようなコトで、それ以上はきっと、身にあまるのだ、と。
やがて、金色の巨躯はしなやかに跳躍する。
地を一蹴りするたび、信じがたい距離をすすみ、森の闇にまぎれる刹那、
『―――――来るがいい』
そう、確かに、頭に響いた。
作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har