D.o.A. ep.44~57
Ep.47 無人島・12日目−1−
夜を迎えるたび、適当な樹の幹に刻んでいた傷の数が、十本と二本を数える。
ライル、ティル、ジャックの、無人島生活における、各自の役割が定着するには、じゅうぶんな時間だった。
ティルは、半端でないほどのサバイバルの知識と技術をもっていた。
獲物を狩る技術から、薬草の判別、罠や道具や簡単な設備の製作などなど、手際も非常によかった。
蛇や蟲も食える、と言い出した時には、流石に引いてしまったが、彼のおかげで食事の材料や調理手段も格段に増えた。
その、おさんどんを務めているのは、ライルである。
調味料は充分とはいえないが、叩きこまれた調理法と勘が、男三人の舌と胃袋を満たすのに一役も二役も買ってくれている。
セレスさんありがとう、と、あらためて拝み倒したいくらい感謝した。
ジャックには突出した技能はなかったが、教えられた事は大抵器用にこなすので、状況に応じて二人のサポートに回っている。
聞くところ、流される前に乗っていた船では下っ端で、何でも手伝わされるので、自然覚えが良くなっていったらしい。
そして、たった三人ぽっちのこの無人島で、一番明るいのが、この男であった。
どんな時も基本的にポジティブで、なにか失敗するたびに救われた。
毎日、高い樹に登って、遠い海を眺めるのも日課のひとつとなっていた。
何ヶ所かの海岸に煙をたいて、近海を通りかかる船が気付いてくれることに期待している。
今のところ、気付いてもらうどころか、そもそも通りかかったことさえないが。
ジャックが待った1ヶ月の、今はまだその半分にも満たないのだ。
希望を捨てなければ、いつか幸運は手繰り寄せられる、と信じていた。
「しっかし、ソルが喋りよるとはなあ。賢いヤツやとは思てたけど」
12回目の昼食。
樹から削りだした匙を右手で揺らしながら、ジャックはぼやく。
左手にある、椰子に似た植物の殻を加工した皿は、スープがなみなみと注がれている。
「だから、ソルじゃないんだって。レオンハートだって」
「んーうま、今日もライルくんの料理は最高やー。キミの味付け、おふくろの味っちゅーの?俺のハートと胃袋がっちりわしづかみ」
「言っとくが、残念ながらこれ以上おかわりは出ない」
「ちぇー」
毎回の食事で、忘れずこうして褒め称えてくれるのは、ジャックの長所だ。
「材料と調味料があれば、もちょっといいもん作ってやれるんだけどな」
調味料、牛豚肉、たまご、野菜が無人島にあるわけもなく、今のところ材料は野草、魚貝類、海草、木の実に果実くらいのものであった。
ときどき海鳥を射落として帰って来るので、それは鶏肉と呼びうるのかもしれないが、食べるところが少ないため、出汁程度の役にしか立っていない。
それらをいかに飽きさせず食わせるかが、ライルの頭を日々悩ませる課題である。
なので、その悩みぬいた成果を、毎度称賛してくれる、ジャックの気配りはありがたかった。
「………」
そして、ティルは一言も発していない。
この男からぺらぺらと褒められるのも薄気味悪いので、それは構わないが。
旨いのか不味いのかわからない、むしろ不味そうな顔で食うのはいかがなものか。
エルフが食卓を重要視していないからといって、この時間を単なる栄養摂取だと考えられているならば、心外である。
「ティルくん、蟲とか食えるってゆーてたよな。俺ちょっとだけ…興味あんねんけど。…いや、食いたいわけやのうて、どうやって食べるのかと」
「…………はじけるまで焼く」
魚を噛んで飲み込んで、それだけ答えると、ティルは得物を手に腰を上げた。
食卓にとどまろうとしないのは、やはりこの時間は苦痛なのだろうか。
作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har