少年少女の×××
結局、佚はレディルの言葉に混乱しながらも祈祷することに決めたが離れるときも顔がひきつっていた。
「なあ、我が友人どの」
「何、祈祷悪魔」
「私が知っている水ヶ谷蓮という人間はそこまで他人の為に手をさしのべるような菩薩的性格の人間じゃぁなかったと認識していたが、私の誤認だったかな?」
「それで正確だよ。うちはしがない人間に過ぎない」
「しがない人間……かぁ……きっはっはっはっ」
何がおかしいのか椅子にふんぞり返りながら笑いだした。
「確かに貴様はしがない人間だよ。しがない、だが、そこらの人間とは違うね。普通の人間は【悪魔を頼らない、悪魔と友達にならない、悪魔に近寄らない。】はいこれ、人間三ない運動だ」
「あぁあったね。そういうのも。悪魔だけ対象だなんて変な話だけど」
「きはっはっは。人間なんて悪魔よりも貪欲な癖にな。だから利用されて最悪な結末を迎えるのがほとんどなんだ」
悪魔よりも悪魔だ。とレディルは続けた。悪魔は利用するだけ。人間の欲を。そんなものなければ人間が悪魔と関わって悪事が起こることなど無いのだから。だが、貪欲だからこそ【新たな技術】を生み出すことができ、世界全体がここまで進歩できたのだ。故に他種族は人間のそんな貪欲な一面を強く否定することはできないのだ。
「貴様はあれだな。貪欲なんだろうが手前で尻尾巻いて逃げ出すタイプだな」
「誉め言葉と受けとるには難しいけど頑張って受けとる」
レディルに借りた、どこの民族のなんだかわからない絵本を蓮は読みながら適当に返事を返す。レディルのサイズなので床において読む形になっているが。
「それ好きだねぇ。来る度に読んでる」
「今の絵本とかってさ、昔の童謡とかおとぎ話を子供の教育に良いように滅茶苦茶乙女チックに、ご都合主義に、ハッピーエンドに改正してる。だけど、これだけはそれができないからね。この絵本作家はすごいと思うよ。何を予見したんだか偶然なんだかわからないけどこの本を描いたことはかなりの遺業だと思うよ」
「ベタは嫌いなんだっけな?」
「ベタが嫌いなんじゃない。簡単に予想できる展開が嫌いなんだ。人生は意外性が一番重要だと思うから」
予想できる展開、ありきたり。それらは蓮にとって『つまらないもの』に分類される。次がわかることはつまり、驚き、喜び、ときめきが予想できる。半減してしまう。悪ければゼロになってしまう。極端かもしれないが蓮はそう考えている。
しかし、これが彼女の『本当に思っていること』ではない。
「まあま、あの犬っころの方は貴様の【治療】に比べれば軽い軽い、ていうか私はほとんどなにもしないからね」
その言葉のあとには図ったかのようにまるで殺されているのではないかというような絶叫、いや遠吠えが聞こえた。
聞いている者でも身を裂かれたような気分になる狂ったような叫び。
「始まった?」
「いや、あの犬っころにとったら終わりに向かうのだろう。いや?始まりか?これからあの無視し続けた自身との確執を相手取るのだから」
「死なない?」
「何だ?惚れてるの?」
その言葉に蓮は迷わずに首をふった。そして、続けた。
「目の前で痛いと言われたら耐えられない」
「それでここにつれてきたのか?」
「いつもの『自己満足』だよ」
「友達になるの?」
「さぁ、向こうがなりたいなら」
「貴様からは?」
「よく言うでしょ」
去るものは追わず。ってね。