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まるでナントカのような

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 わたしは朝からいたく感動していた。世界が輝いて見えるからだ。
 布団を剥いで床に素足をふれさせ、窓を開きサッシを踏み越えベランダに出る。それだけの行為さえも感動的だった。
 目覚まし時計が小鳥のようにさえずったのだ。そして小鳥は脳裏に浮かぶ木陰の少女のように儚くくっきり羽ばたいたのだ。
 視界の隅でカーテンが鴎の翼のようにはためいた。絵に描いたように美しい山の向こうの朝日は小学校の校長先生の禿頭のように輝いていたし、風は身を切るように冷たかった。
 なんてしあわせなんだろう。こんなに光り輝くものに囲まれて生きて、わたしはなんてしあわせなんだろう。こんなことがあっていいのか。わたしはもっと、みんなにしあわせをお裾分けするべきではないのか。
 今まで味わったことのない爽快な朝に、わたしの胸はぱんぱんに空気の入ったゴム毬のようにはずんだ。きっとこの心臓の弾みなら、宇宙にだって飛び出せる。
 わたしはさっと身支度をして駆け出した。今日は何も用事はないけれど、とにかく外に出るのだ。もっとこの感動を味わわねばならない。

 とても、しあわせな一日だった。

作品名:まるでナントカのような 作家名:長谷川