寿司戦士 シャリダー01
鰯男の回転スピード、ピークに達している。
「喰らえー腐汁スプラーーーッシュ」
「く……マズイ」
俺、必殺技とか聞いてないし……でもそれらしい動きをして、それらしい技名を叫んでみた。
「銀シャリスプレーーーッド」
俺、怪人に向け、手の平をかざした。すると……
俺の手の平にこびり付いていた酢飯が、渦を巻いて怪人に飛び散っていく。
「ジャクジャーク?なにぃ?」
怪人の鰓から飛び散る腐汁、銀シャリに弾かれて霧散する。そして勢い止まぬ銀シャリ、怪人の体にどんどん張り付いていく。
「ジャーク!シャリが……体にまとわりついて動きがとれないジャク」
鰯男、この終盤にきて、今更のように語尾を「ジャク」に変える役作り。
「今だシャリダー!握るんだ」
どこからか声が聞こえた。
――そうか!分かったゾ
俺、怪人に跳びかかり、相撲の決まり手で言う所の「鯖折り」を仕掛ける……ま、相手は鰯なのだが……
「握るぜ!」
今考えた決めザリフ。
俺、怪人を抱きかかえたまま、空高くジャンプした。そして。
「小手一手返しスペシャルーーー!」
今考えた技名。
俺、空中で、怪人と、怪人の体に張り付いた酢飯の塊を両手で抱きしめる。そして向きを変え、素早く酢飯を扇の字型に整形すると、もう一度抱きしめて。
ばすーん
諸共地面に落下して行き、怪人を地面に叩きつけた。
土煙。
・ ・ ・
俺……勝ったのか?
俺、立ち上がる。目の前には、俺の空中小手一手返しによって、握られた巨大な鰯の姿がある。
「俺が……俺がコイツを握ったのか?」
自分でも信じられない。
「そうだ……お前が握ったんだ」
声の方を振り向く。
「た、大将?!」
先程の掛け声も、思い返せば大将の声だった。
「司……よくやった」
めったに褒めない大将、俺を褒めてくれた。
「大将……俺……」
「何も言うな……司、いい仕事だったぜ」
大将は、いつにない優しい態度で、俺を労ってくれた。
「はっ、それより、ご隠居が」
俺、ご隠居に駆け寄る。
「ご隠居……」
俺、地面に伏しているご隠居の体を抱く。
「……寿の字……病院に連れて行ってくれ……儂、まだ息がある」
俺は冷めた。「病院に連れてけ」とは……ひどく実務的な……でも、生きていてくれて、俺、ホッとした。
日はとっぷりと暮れ、築地は夜の賑わい。アチコチからぷーんと酢飯の香りが漂ってくるようだ……
*****
俺、寿司(24歳)。
俺、寿司戦士シャリダー01。
俺、戦う。築地の平和を守るため、戦う。
いつか皆の街に、寿司怪人が現れたら。俺に連絡してくれ……あ、俺に連絡を取りたい場合は、ひとまず「源五郎寿司」に電話してくれ、電話番号はネットで検索すれば分かると思う。あ、同名の寿司屋が結構沢山あるので注意してくれ、築地にある源五郎寿司、それが俺の勤務先だから……あ、そういえば、築地にはもう一軒「げんごろう寿司」っていう店があるけど、それは違う店だから。俺が務めているのは、「源五郎寿司」。漢字表記の方だから、間違えないでくれ、あと、電話番号掛け間違えないようにしてくれ、結構それ系のクレームが多いから……あ、それと木曜日は俺、休みだから……それ以外の曜日だったら、夜12時から早朝までを除いて、だいたい俺、店にいる。出前に行ってたらゴメン。かけ直すから、伝言しといてくれ。とにかく気軽に連絡してくれ。
あ、一応言っておくけど、「シャリダーさんいますか?」はNGだからな……俺の正体を知っているのは、江戸前田のご隠居とうちの大将……それと……
君だけなんだから……
作品名:寿司戦士 シャリダー01 作家名:或虎