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かざぐるま
かざぐるま
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ビッグミリオン

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『ラスベガス・チーム8』 四月三日



 ライブ監視チームの『チーム8』はラスベガスに到着後、日本にいるブライアンからの情報により三チームの現在地を確認した。その時同時に、すでに四チームが〈脱落〉した事を知った。
 彼らの役目はまず“映像で経過を記録すること”である。最先端の映像技術を駆使して記録後、本部にそれを転送しなければならない。
 もう一つの役目は、“現地でできるだけ金をばらまくこと”だ。これは彼らの裁量に任されていて、どう使おうと構わない。ただ焼却や、捨てる事は厳禁とされていた。
 実はこれが『チーム8』の悩みの種であった。出発前に五十万ドル入りのアルミケースの他に、同じものを更に五つ渡された。計三百万ドルを数日間で使い切らなければならないのだ。
 映像を撮るかたわら、大金を使い切る。これがいかに難しい事か、彼らは実際にやってみるまで分からなかった。最初は「凄い贅沢ができる」と喜んでいたのだが――。

 技術部に属している〈ガリガリ〉アーノルドは撮影を、〈童顔〉ベイブと〈DOLL〉キャサリンはお金を有効に使う役に決まった。
 彼らは、まず中国系アメリカ人の通訳『キム』を買収した。次にチームセブンの男性と接触したと思われる女性ディーラーの『ナンシー』も金を惜しまず買収し、情報を得ることにした。なぜ接触したことが分かったのかは、後ほど明らかになるはずだ。そのナンシーのペンダントには超高性能の小型カメラが巧妙に仕込んであったが、謙介たちには知る由もなかった。
〈童顔〉ベイブはその名の通り童顔だが、かなりのマッチョでビッグミリオンに入る前はモデルをしていたらしく、プロテインを毎日欠かさない男だ。
〈DOLL〉キャサリンは肌がきめ細かく、目鼻立ちが整った人形のような綺麗な顔をしている。彼女は『チーム8』のリーダー的な存在で、チームの決定権をほぼ握っていた。なぜブライアンの強烈な後押しでこのメンバーに加えられたかは分かっていない。
〈ガリガリ〉アーノルドの自慢はハッキング技術とチェスだ。基本的に黙々と仕事をこなす技術畑の人間であり、愛称通りのガリガリな身体をしていた。
 部署が違うのでフルネームはお互い知らなかったが、愛称で呼び合っているので問題は無いようだ。
「あと三百十万ドルも残ってるわ。カジノででたらめに賭けてたのに何故増えるのよ」
 DOLLは深いため息をついた。
「勝とうって思って真剣にやると勝てないくせに、無心でやると勝ってしまうってのはよくあることだよ」
 ベイブは童顔のくせにがっしりとした男らしい肩を竦めた。
「何かうまい考えはない?」
(顔は子供なのに、その胸板はおかしいでしょ)と思いながらタバコに火を点ける。
「ゴホン。例えば、五ブロック先に教会があったろ? あそこに百万ドル寄付するとかダメかな」
 ベイブは煙がよほど苦手なのか、横を向くと手で払う仕草をする。
「――イヤよ。私はクリスチャンだから、〈エクスプロージョン〉初期の犠牲者にはしたくないわ」
 彼女の目は悲しげだ。これから起こる事を想像して嘆いているようにも見える。
「結局同じことだろ。まあ、君がそういうならしょうがないけど」
 神経質な仕草で首の後ろの生え際を掻きながら、ベイブは渋々と納得した。
 このスイートルームでの作戦会議は、軽く二時間を超えている。アーノルドは別室で映像を編集中だ。
「ほんっとうまく行かないわよね。もうこのお金持って逃げちゃおう、か、し、ら!」
 わざと誰かに聞こえるように大声を出す。
「お、おい! 聞こえるぞ。それでなくても俺たちのチップランクは低いんだから」
「聞こえるように言ったのよ。ブライアン、あなた頭が良いんだから何かいい方法考えてよ」
 虚空に向けて言いながらにこっと微笑んだ。


――横浜の日本支部ではブライアンがその会話を聞いてくすくすと笑っていた。
「カエラ、DOLLはどうすると思う?」
 カップの珈琲を飲みながら問いかけた。
「彼女はあなたの妹なんでしょ? あなたと同じくらい頭が良いから、何かもう考えてるはずよ。ところで彼女のチップランクだけが高いのを、他の二人は知らないのね。……身内びいきだこと」
 カエラは急にふっと表情を緩めてブライアンに近づくと、恋人に注ぐような仕草で珈琲を注ぎ足した。
 少しいい雰囲気を壊すように、デスクの電話が鳴った。
「エリックだ。例の奴隷になった女性はどうしているのか気になってね」
 賢者と呼ばれる男からの電話に、ブライアンは露骨に顔をしかめる。
「現在、中国から飛行機でヨーロッパに向かっています。行先はまだ分かりません」
「そうか。もう一人の貴子とかいう女性はどうなってる?」
 電話の向こうの声はいつもより少し甲高く、本当に楽しそうだ。
「彼女は弟が入院している病院にずっといるようです。スタッフが一名常に監視していますが、ここはもう必要ないのでは?」
「いや、ルールはルールだからな。他の二名が帰国したら“その二名にも”ペナルティを受けてもらう。まあ、チップを取り出すってだけだがね。そうそう、ロシアチームは保留でいいぞ。まだチップと金は動いているからね」
 賢者エリックは早口でそう言ってから、一方的に電話を切った。
「ロシアチームか。まどかという女の発信機はどうなってる?」
 今の電話で少し機嫌が悪いようだ。
「今は……立川にある倉庫に監禁されているようです。ケースに仕込んだ発信機は川の中なので、中身を早々に詰め替えたと思われます」
「そうか、では引き続き監視を続けてくれ。彼女の生命反応が消えたら、もうそこで終了でいい。ついでに日本のちびっこギャングどもが金をばら撒いてくれればありがたいが」
 彼はそう言うと世界地図を取りだし、赤いペンで書かれた丸印の位置を確認した。丸印は日本、アメリカ、ヨーロッパなど世界各地に何個も付けられていた。



※現在のチーム状況

チーム1  アメリカ人二名+ヤン         逮捕により失格
チーム2  まゆみ、美香、貴子          摘出により失格
チーム3  あつし、ゴリラ、おばあさん      ラスベガス
チーム4  リンダ、モヒカン、サラリーマン    ラスベガス
チーム5  タイ人二名+日本人一名        二名死亡により失格
チーム6  ロシア人二名+日本人一名       日本
チーム7  謙介、あずさ、紫苑          ラスベガス
チーム8  アメリカ人三名            ラスベガスで特殊任務中
チーム9  マイケル、ジェフ、将太        イギリス
チーム10 紅花(ホンファ)他、中国人二名    逮捕により失格

※この時点ですでに四チームが脱落していた。特殊任務中のチーム8を除くと、現在チャレンジ続行可能と思われるのは残り五チームとなっていた。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま