ビッグミリオン
『ラスベガス・チーム4』 四月三日
マンダリン・オリエンタル ・ラスベガスのラウンジに、モヒカン、リンダ、リーマンの三人が集まっていた。
「さあて、待ちに待った勝負開始の時間よ! 一応聞いておくけど、何か作戦がある人?」
ブロンドの髪を後ろで一つにまとめ白いドレスを着たリンダが、腰に手をあてながらきらきらと光る青い目で一同を見廻した。
「そうだなあ。俺は頭が悪いから、なーんにも考え付かないよ。どうせだったら五十万ドルを三等分してさ、それぞれ勝負しようぜ。その方が気楽に勝負できるし」
「あんたひょっとして、それ持って逃げようと思ってない?」
モヒカンは唇に着いているピアスをいじりながら、こわごわとリーマンを見る。今や彼にとってリーマンはアンタッチャブルなのだ。
「……分けて勝負することは賛成だ。ただ、その金を持って逃げたりする事は、非常に危険な気がする。ブライアンの言っていた事はハッタリでは無いと思う」
リーマンは眉間にしわを寄せながら、鋭い目で発言した。太く低い声で話す彼の様子は、初対面の時の気弱さが演技だったとしか思えない程だ。
「そうね、私もそう思う。逃亡はナシで、それぞれ勝負しましょう。最終日に三人のお金を合わせて、百万ドルに達していたらOKなんだから」
そう言うと同時に、まとめた髪を解いた。これからの勝負に興奮している様子が分かる。
皆この時までは知らなかったが、リンダはかなりのギャンブラーだ。日本にいた時も香港のカジノにわざわざ出向く程だった。潤沢な資金があれば自分は負けるはずは無いと高をくくり、顔を上気させ早く勝負に行きたがっているようだ。
「んじゃ、それで行こう。誰が一番稼いだかじゃなく、最終日に目標金額を突破してたら賞金はちゃんと山分けな」
モヒカンは再確認するように二人を見た。今度はチーム内だから、今回はさすがに裏切りは無いと踏んでいるようだ。そのままアルミケースから札束を取り出すと、ホテルの従業員が興味深い顔をして見ているにも関わらず淡々と三等分に分ける。無事分け終わると、それぞれの思いを胸に秘め三人はカジノに散って行った。
数時間後
リンダは自分の部屋のベッドに腰掛けて頭を抱えていた。あろうことか、たった三時間で十六万ドル近くが煙のように消えてしまったのだ。ドレスの肩ひもも片方が外れ、ぶらんと肘のあたりに垂れ下がっている。
突然ふらふらと立ち上がるとミニバーで強い酒を一気にあおり、、ハイヒールを乱暴に脱ぎ捨てながらソファにダイブした。そのままクッションに顔をうずめて形のいい脚をバタバタさせる。
(あの時プレイヤーにさえ賭けていたら)思いだすたびに唇を噛みしめた。
「君は、バカラにだけは手を出すな」とギャンブル仲間に言われたのを、今になって思い出す。
「あれ? そっか。あの人たちが勝ってれば大丈夫なんじゃない?」
彼女の反省の時間は……きっかり三十分だった。
もう一度ミニバーに行き、今度はミネラルウォーターを飲み干すと残りの二人の様子を見に行くためにバスルームで顔と髪を整えた。この時、彼女は(もしどちらかが勝っていたら資金を回してもらおう)と考えていた。これは典型的なギャンブル中毒者の思考であることに、彼女自身は気づいていないようだ。
携帯で連絡をとると、騒音と共にモヒカンが出た。彼はMGMグランドホテルのカジノの、ビデオポーカーで勝負している最中らしい。