妹
1.衝撃
東京のとある町にその家は存在した。二階建てで白いこのどこにでもありそうなこの家は「斉藤」一家が住んでいる。一家と言ってもこの家に母はいない。母「真樹」は斉藤家長女「加奈」を産んでまもなく他界した。体が元々弱かった為である。そして加奈の兄でこの家の長男「一也」はキレやすく、加奈に対して少々暴力的であった。
今日も一也が加奈をり飛ばしている。加奈は頭を抑え無言で耐えている。一也は眉をぴくりとも動かさず、平気な顔で蹴っている。
「お前生意気なんだよ。」
そこにドアを開けて楓が入って来た。
「あんた!!なにしてんのよ!!」
「おまっ・・・どこから入って・・・・」
「玄関からよ!ちゃんとチャイム鳴らしたからね。」
楓は一也の幼なじみでよく斉藤家にやってくる。一也曰く最近遠慮がなくなってきたとか。
「加奈ちゃん、大丈夫?」
「はっ・・・はい・・・。でも・・・」
加奈はうつむいた。楓は眉を曇らせた。
「・・・ああいわれても止めずにはいられないよ。」
一也は舌打ちをしてから、どっと座り込んだ。楓ははあ・・・とため息をついた。いつもこんな感じである。楓がちょくちょくこの家にくるのは加奈に暴力をふるう一也を止める為でもあった。楓がトイレに行くと、そこに家のチャイムの音が鳴り響いた。加奈がでむかたのは同じ中学で一也の友達の神田だった。
「よう、加奈ちゃんー漫画貸しに来たぜー。」
「神田兄ちゃん、どうぞあがって下さい・・・。」
神田が家にあがると、一也が神田に漫画の催促をするように手を伸ばした。いつものことだ。神田は一也にイヤな顔一つせずに持ってきた漫画の半分を一也に渡す。そしてもう半分を加奈に渡した。そこに楓が帰ってきた。
「・・・お前誰だ?斉藤の彼女か?」
「そんなんじゃねえよ!!!」
「斉藤・・・照れてんの・・・??」
「神田!てめえ!!」
「まあまあ・・。」
これが神田と楓が初めて出会った時だ。どうやら神田と楓はなかなか馬が合いそうな感じだった。しばらくしないうちに二人は打ち解けた。一也の家で四人で会うことも増えた。
そして楓と神田が初めて出会ってから2ヶ月たったある日、雨の日に傘も挿さずに楓がやってきた。扉を開けた加奈はびちょぬれな楓を見て驚きをかくせないようだった。覚悟決めたようなどことなく怖い顔をしてうつむいていた楓が作り笑いをしながら加奈に言った。
「・・・ごめん・・加奈ちゃん・・一也いる?」
「あ・・・・はい・・待ってて下さい・・。」
一也は楓の様子に加奈以上に驚いた。珍しく一也が入れと気を遣ったのだが、楓はまるでさらになにかに気を遣ったかのように来てと一言だけ言ってひとけのない公園に連れ出した。さすがの一也もタオルと傘を楓に渡してから家を出た。公園に着くと楓が重い口を開いた。
「あたしね・・・大阪に引っ越すことになったの。お父さんの転勤で。だから・・・・あんたに言わなきゃいけないことがあるんだ・・」
「なんだよ・・・。」
楓の真剣すぎるまなざしに一也は少し戸惑った様子だった。
「・・・聞いたんだ、加奈ちゃんに・・・。あのね・・・。」
楓は一歩一也に近づいて静かに真実を告げた。その時、雷がピカッと辺りが光ってからすごい音がした。一也はその真実に驚いて声が出なかった。そして傘を水たまりに落とした。その傘を一也は拾わなかった。一也はしばらく無言で立ち尽くした。楓もしばらくなにも言わなかった。そしてやっと、一也が口を開いた。表情は驚きを隠せないままだったが。
「なんで・・加奈が知って・・・・どうして今まで黙ってたんだよっ・・!!!」
「・・あたしが言うべきことじゃないと思って・・でも・・あたしが言わないとっ!だって!!」
「・・・もういい・・分かった・・・・」
一也はさっき落とした傘を拾って帰ろうとした時、楓が言った。
「きっとあんたもう加奈ちゃんを殴れなくなる・・。でしょ?」
「てめえっ・・・!!」
一也は拳を振り上げた。しかし、その拳が楓に届くことはなかった。
「・・・ほら・・・ね?」
「・・・・・・・だまれっ!」
そのまま雨の降る道を黙ってうつむいて歩いていた。とある7月の出来事だった。そして次の日楓は去っていった。最後に加奈に笑みを見せて神田と加奈と一也に別れを告げていった。一也はまだ腑に落ちないような顔で見送った。加奈がそんな一也の様子をみていた。楓が去り、神田も帰って行った。家に入ろうとすると、加奈が言った。
「・・どうして・・楓姉ちゃんに何も言わなかったの?・・・せめてさよならぐらい・・。」
「だまれっ!!いつもいつも・・・お前、生意気なんだよっ!!」
一也は手を振り上げた。加奈は頭を抑えた。しかし、いつもなら眉一つ動かさずに何の躊躇もなく加奈を殴るはずの一也が、手をふりあげたまま顔つきを変えて加奈を殴らなかった。それどころか、振り上げた手が少し震えてるぐらいだった。加奈は一也の顔を見てはっとした顔をした。
「・・・知ってるの・・・?」
「・・・・何をだよ・・・っ」
「・・なんでもない・・・・・。」
二人とも少しよそよそしくなった。しばらく一也は何も言わなくなった。すると突然加奈が一也の前に
立った。
「なんだよ・・・。」
「お兄ちゃん・・・た・・助けてっ・・・。」
「は?お前何言って・・・・。」
言い切ると加奈は胸を抑えて倒れ込んだ。どさっという音とともに加奈が動かなくなった。一也はこの一瞬の出来事に驚いてどうすればいいか分からなくなっていた。そこに神田が来た。中で一也が騒いでいるのを聞きつけて勝手に入ってきた。
「・・・おいっ・・加奈!加奈!」
「なにやってんだ?・・・ってうわっ・・どうしたんだよ加奈ちゃん!!」
「わ・・わかんねえよっ・・・!急に・・・。」
「馬鹿!!とりあえず救急車呼べ!」
一也は慌てて電話をかけた。神田は加奈の名前を叫び続けたのだが、加奈の顔は真っ青で、呼吸も弱く、返事も帰ってこなかった。五分もたたないうちに救急車が到着した。神田と一也が付き添いで乗り込んだ。
「・・神田すまない。なんか、巻き込んじまって・・。」
「いいよ別に気にすんなって。」
大きめの総合病院について、加奈は処置室にすぐに連れて行かれた。二時間後ぐらいに担当医に肺の病だと一也は説明を受けた。とりあえずは入院して薬で治療することになった。
「・・・・と、言う訳なんですが、ご両親は・・・?」
「・・・連絡はしたんですけど。」
「そうですか・・。」
時刻は8時を過ぎていた。神田も一也もとりあえず今日は帰ることになった。一也は父信二が今日加奈のもとに来ないことは分かっていた。もちろん携帯に留守電はいれた。しかし、家族より仕事が大事な信二がくるわけないと思っていた。むしろ一也の留守電なんて聞かないかもしれない。そんな父信二が帰ってきたのは11時を過ぎてからだった。
「ただいま、なんだまだ起きてたのか。」
「留守電・・・聞いただろ?」
「・・・いや、忙しくてな。すまん、何の用だ?」
東京のとある町にその家は存在した。二階建てで白いこのどこにでもありそうなこの家は「斉藤」一家が住んでいる。一家と言ってもこの家に母はいない。母「真樹」は斉藤家長女「加奈」を産んでまもなく他界した。体が元々弱かった為である。そして加奈の兄でこの家の長男「一也」はキレやすく、加奈に対して少々暴力的であった。
今日も一也が加奈をり飛ばしている。加奈は頭を抑え無言で耐えている。一也は眉をぴくりとも動かさず、平気な顔で蹴っている。
「お前生意気なんだよ。」
そこにドアを開けて楓が入って来た。
「あんた!!なにしてんのよ!!」
「おまっ・・・どこから入って・・・・」
「玄関からよ!ちゃんとチャイム鳴らしたからね。」
楓は一也の幼なじみでよく斉藤家にやってくる。一也曰く最近遠慮がなくなってきたとか。
「加奈ちゃん、大丈夫?」
「はっ・・・はい・・・。でも・・・」
加奈はうつむいた。楓は眉を曇らせた。
「・・・ああいわれても止めずにはいられないよ。」
一也は舌打ちをしてから、どっと座り込んだ。楓ははあ・・・とため息をついた。いつもこんな感じである。楓がちょくちょくこの家にくるのは加奈に暴力をふるう一也を止める為でもあった。楓がトイレに行くと、そこに家のチャイムの音が鳴り響いた。加奈がでむかたのは同じ中学で一也の友達の神田だった。
「よう、加奈ちゃんー漫画貸しに来たぜー。」
「神田兄ちゃん、どうぞあがって下さい・・・。」
神田が家にあがると、一也が神田に漫画の催促をするように手を伸ばした。いつものことだ。神田は一也にイヤな顔一つせずに持ってきた漫画の半分を一也に渡す。そしてもう半分を加奈に渡した。そこに楓が帰ってきた。
「・・・お前誰だ?斉藤の彼女か?」
「そんなんじゃねえよ!!!」
「斉藤・・・照れてんの・・・??」
「神田!てめえ!!」
「まあまあ・・。」
これが神田と楓が初めて出会った時だ。どうやら神田と楓はなかなか馬が合いそうな感じだった。しばらくしないうちに二人は打ち解けた。一也の家で四人で会うことも増えた。
そして楓と神田が初めて出会ってから2ヶ月たったある日、雨の日に傘も挿さずに楓がやってきた。扉を開けた加奈はびちょぬれな楓を見て驚きをかくせないようだった。覚悟決めたようなどことなく怖い顔をしてうつむいていた楓が作り笑いをしながら加奈に言った。
「・・・ごめん・・加奈ちゃん・・一也いる?」
「あ・・・・はい・・待ってて下さい・・。」
一也は楓の様子に加奈以上に驚いた。珍しく一也が入れと気を遣ったのだが、楓はまるでさらになにかに気を遣ったかのように来てと一言だけ言ってひとけのない公園に連れ出した。さすがの一也もタオルと傘を楓に渡してから家を出た。公園に着くと楓が重い口を開いた。
「あたしね・・・大阪に引っ越すことになったの。お父さんの転勤で。だから・・・・あんたに言わなきゃいけないことがあるんだ・・」
「なんだよ・・・。」
楓の真剣すぎるまなざしに一也は少し戸惑った様子だった。
「・・・聞いたんだ、加奈ちゃんに・・・。あのね・・・。」
楓は一歩一也に近づいて静かに真実を告げた。その時、雷がピカッと辺りが光ってからすごい音がした。一也はその真実に驚いて声が出なかった。そして傘を水たまりに落とした。その傘を一也は拾わなかった。一也はしばらく無言で立ち尽くした。楓もしばらくなにも言わなかった。そしてやっと、一也が口を開いた。表情は驚きを隠せないままだったが。
「なんで・・加奈が知って・・・・どうして今まで黙ってたんだよっ・・!!!」
「・・あたしが言うべきことじゃないと思って・・でも・・あたしが言わないとっ!だって!!」
「・・・もういい・・分かった・・・・」
一也はさっき落とした傘を拾って帰ろうとした時、楓が言った。
「きっとあんたもう加奈ちゃんを殴れなくなる・・。でしょ?」
「てめえっ・・・!!」
一也は拳を振り上げた。しかし、その拳が楓に届くことはなかった。
「・・・ほら・・・ね?」
「・・・・・・・だまれっ!」
そのまま雨の降る道を黙ってうつむいて歩いていた。とある7月の出来事だった。そして次の日楓は去っていった。最後に加奈に笑みを見せて神田と加奈と一也に別れを告げていった。一也はまだ腑に落ちないような顔で見送った。加奈がそんな一也の様子をみていた。楓が去り、神田も帰って行った。家に入ろうとすると、加奈が言った。
「・・どうして・・楓姉ちゃんに何も言わなかったの?・・・せめてさよならぐらい・・。」
「だまれっ!!いつもいつも・・・お前、生意気なんだよっ!!」
一也は手を振り上げた。加奈は頭を抑えた。しかし、いつもなら眉一つ動かさずに何の躊躇もなく加奈を殴るはずの一也が、手をふりあげたまま顔つきを変えて加奈を殴らなかった。それどころか、振り上げた手が少し震えてるぐらいだった。加奈は一也の顔を見てはっとした顔をした。
「・・・知ってるの・・・?」
「・・・・何をだよ・・・っ」
「・・なんでもない・・・・・。」
二人とも少しよそよそしくなった。しばらく一也は何も言わなくなった。すると突然加奈が一也の前に
立った。
「なんだよ・・・。」
「お兄ちゃん・・・た・・助けてっ・・・。」
「は?お前何言って・・・・。」
言い切ると加奈は胸を抑えて倒れ込んだ。どさっという音とともに加奈が動かなくなった。一也はこの一瞬の出来事に驚いてどうすればいいか分からなくなっていた。そこに神田が来た。中で一也が騒いでいるのを聞きつけて勝手に入ってきた。
「・・・おいっ・・加奈!加奈!」
「なにやってんだ?・・・ってうわっ・・どうしたんだよ加奈ちゃん!!」
「わ・・わかんねえよっ・・・!急に・・・。」
「馬鹿!!とりあえず救急車呼べ!」
一也は慌てて電話をかけた。神田は加奈の名前を叫び続けたのだが、加奈の顔は真っ青で、呼吸も弱く、返事も帰ってこなかった。五分もたたないうちに救急車が到着した。神田と一也が付き添いで乗り込んだ。
「・・神田すまない。なんか、巻き込んじまって・・。」
「いいよ別に気にすんなって。」
大きめの総合病院について、加奈は処置室にすぐに連れて行かれた。二時間後ぐらいに担当医に肺の病だと一也は説明を受けた。とりあえずは入院して薬で治療することになった。
「・・・・と、言う訳なんですが、ご両親は・・・?」
「・・・連絡はしたんですけど。」
「そうですか・・。」
時刻は8時を過ぎていた。神田も一也もとりあえず今日は帰ることになった。一也は父信二が今日加奈のもとに来ないことは分かっていた。もちろん携帯に留守電はいれた。しかし、家族より仕事が大事な信二がくるわけないと思っていた。むしろ一也の留守電なんて聞かないかもしれない。そんな父信二が帰ってきたのは11時を過ぎてからだった。
「ただいま、なんだまだ起きてたのか。」
「留守電・・・聞いただろ?」
「・・・いや、忙しくてな。すまん、何の用だ?」