Butterfly Effect
Butterfly Effect エピローグ
セカイは崩壊しつつある。
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私が願い事を終えてから――灰色蝶が蛍光灯に消えてから――十分後、部屋の扉が開いて、彼が入ってきた。私は、俯いたまま。
彼の手が触れた。私の肩に。
「百式……ありがとう」
「……山本君」
「いいんだ……これでいいんだよ。きっと……」
彼は優しかった。
窓の外。
積雲が渦を巻き、地平線の端からこちらに向かって、ゆっくりと迫ってくるのが見える。雲は黒々としていて、そこに飲み込まれた存在は、多分……いや、きっと……跡形もなく消滅してしまっているのだろう。
「山本君の事が好き」
すべて消えてしまう前に、これだけは絶対に言っておかなければならない。そして私はそう言った。
「俺は……百式の事……」
ごごごご
セカイの崩壊が迫ってきている。
「百式の事……異性として意識した事なかった」
私は力なく笑う。
「そう」
崩壊が加速する。
「でも……こんなにまでして俺の事を想われてしまったら……好きになるしかないだろう?」
彼の坊主頭が地球に見える。
「俺は……百式の事が好きだ……多分、辻褄は後から合わさって来るさ……俺はきっと……お前の事が好きだったに違いない……自分の心に気づいていなかっただけなんだろう」
私は、嬉しかった。
「どうして……君は……そんなに、ありえないくらい優しいのかなぁ……」
私の壊れた涙腺がねじけて、最後の一滴を振り絞った。
――キスして……と言いかけて止めた。嘘っぱちの口づけで、セカイを終えるなんてまっぴらだ。
「握手して」
私はそれを望んだ。少なくとも友情はあったはずだ。
「ああ」
握手した。
セカイは終わった。
作品名:Butterfly Effect 作家名:或虎