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Butterfly Effect

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Butterfly Effect ♯03



 山本君LOVEな私は、とにかく嬉しかった――彼の軟弱な膝が、回復して。

 私がチョウチョにお願いしたからだろうか?……いや、そんなわけないか。

 と。

 その時点では、思っていました。

*****

 山本君は、卓球部のエースとして返り咲いた。

「奇跡が起こった……としか、言いようがありません」

 訝しげに自分で書いたカルテを見返しながら、お医者さんが、山本君にそう言ったそうだ。

 そして方や、寝て起きたら何故か膝を故障させていたC組の遠藤君。

「俺、呪われちゃったのかな……」

 口癖のように呟き続けているらしい。遠藤君は野球部のエースピッチャーだったんだけど、夏の甲子園を諦めざるを得ない状況。そうなるとうちの学校の甲子園出場も絶望的となり……私達ブラスバンド部が、応援の音色を甲子園で吹く機会もなくなってしまうだろう……残念だけど……

 因果関係……山本君の膝と遠藤君の膝の?……その時点では、そんな事、考えもしなかった。

「山本君」

「あ、百式」

 そうそう、申し遅れました。私の名前、百式って言います。フルネーム、百式 百子(ひゃくしき ももこ)って言います。変わった名前でごめんなさい。

「膝……治ってよかったね」

 私は、満面の笑みを山本君に披露した。

「百式、ありがとな……色白心配してくれて……あと、その……昨日はごめんな、八つ当たりしちゃって」

 感動した。山本君はやっぱりナイスガイだ!

「ううん、いいの。部活頑張ってね」

 私は、色んな感情が爆発寸前になっちまって、目に涙を溜めて走り去った。

(山本君……ひょっとしたらだけど、貴方の膝を治したのは、私かもしれないのよ)

 あのチョウチョが、私の願い――山本君の膝を治して――を叶えてくれた……つまり、私が彼の膝を治したのかも知れない。そう思うと、人知れず誇らしくなってきた。

 そしてこうも思った。

(今後、山本君の身に、何か不幸な事が訪れたら、また同じようにして、私が助けてあげる)

 まぁ、それは思ってみただけなんだけど、実際、チョウチョの事については、私の空想と錯覚と妄想と幻覚が入り混じった絵空事に過ぎないだろうと半ば確信していたし……

 だけど。

 架空のチョウチョにすがる、機会は思ったよりも早く訪れた。またしても山本君、不幸にみまわれたのだ。

*****

「なんでだよチキショー」

 保健室、山本君はベッドに横たわっていた。

「明日、地区大会だっていうのに……どうしてこんな時に……」

 大会前日、練習中にぶっ倒れた山本君。急いで保健室。熱を計る。かなりの高熱だ。どうやら風邪……いや、ひょっとしたらインフルエンザかも。

 一難去ってまた一難。どうして運命の女神様は、山本君を集中的にいじめるのだろうか?まったく不公平極まりない。

「大丈夫だよ……一晩寝たら良くなるかもよ」

 それが気休めに過ぎないことは、自覚していたが、そう言わざるを得ない状況だった。

「……ありがとな百式……でも自分の身体の事だから、分かるんだ……明日は、多分ムリだ……こんな調子じゃあ、試合にならないよ」

 そう言って山本君は、向こうを向いてしまった。肩が小刻みに震えている……泣いているのだろうか?……分からない。私は、泣いた。

「……山本君……私が何とかするから!」

 そう絶叫して、ダッシュする私――私が何とかするしかない!

 急いで家に帰った。そしてベッドに倒れ込む。天井の蛍光灯を見つめる。

「来て……チョウチョさん……」

 祈る……来ない。天井の蛍光灯を睨む。

「来なさいよ……チョウチョ」

 強引に祈る……来ない。

「来いって言ってんだろうが!馬鹿チョウチョがぁ」

 キレた。

 ふらり

 蛍光灯から、滴が滴るように、色彩の塊が落ちて来た。それは空中で、暫くわだかまっていた。プリズムの中の虹、プリズムもないのに浮かんでいるよう。色彩は、そのうちまとまりを持ち始めて、しまいにチョウチョになった。

「キター!」

 チョウチョが来た。オーロラを圧縮してチョチョの形に成型したような色彩の塊……前と同じように部屋の中を彷徨って、その終点として、私の手の平を選ぶ。

 私は起き上がり、手の平に収まったチョウチョに語りかける。

「山本君の……病気を治して……」

 ふわ

 チョウチョが瞬いた。

 ?

 その時、私は気がついた。チョウチョは二匹いる?

 オーロラ色のチョウチョに、まるでその影であるかのように寄り添う、灰一色の淡いチョウがいる。私は、そのチョウにも重ねてお願いする。

「山本君の病気を治してください」

 ひらひら

 2匹のチョウチョは、私の手の平で羽を開閉しているばかり、一向に飛びだつ気配がない。私は苛立つ――このチョウチョ達、私の願いを叶える気が無いのではないだろうか?

「お願いチョウチョさん……山本君の風邪を……いや、風邪かインフルエンザか分かんないけど、とにかく治してあげてください……もしあれでしたら、代わりに、私が病気を引き受けても構わないから」

 きらりふわり

 チョウチョは、私の申し出に納得したように、2匹ずれで私の手の平から飛び立った。

 そうして。

 ふっと消える。天井の蛍光灯に吸い込まれるようにして。

「多分……これで大丈夫なはず」

 私には不確かな確信があった――私の願いは、たぶんきっと叶うと。

*****

 次の朝。

 山本君は元気になったらしい。電話で友達に確認した。私の願いは、チョウに通じたのだ!

 そして。

 39度8分の高熱に喘ぐ私、学校に行くことも出来ず。部屋に閉じこもっている。

(きっと、私を侵しているウイルスは……山本君由来のウイルスね)

 因果関係はあると思う。

 +-0になるように出来ているのだろう。あのチョウへの祈りは。

 そう考えざるを得ない。

 何にしても、彼が大会に出場できた事、それだけで私は満足だ。

 げほ

 げほげほ

 彼のためなら……辛くはない。そう思った。

 私はまた、いつかきっとそのうち、いやそんな遠い未来じゃないすぐに、またあのチョウチョを呼び出すと思う。

 山本君の為に……そして、不幸の引受け先は、私……

 私は……それで構わないの……

 げほん

作品名:Butterfly Effect 作家名:或虎