罪子、困惑する。
それは歪んだナルシズムだった。求める自分への愛が、《平良凛子》を不貞の愛へと走らせる。その愛に終わりはない。《平良凛子》が求めているのは、求め続けている自分の姿なのだから。
罪子は、パタンと手に持ったファイルを閉じた。
この呪詛が成立しない以上、《平良凛子》のポイントは減算されない。この行為は、罪子たち観察者にとっては、なんら意味のないものなのだ。
肩にかけた黒い鞄にファイルを仕舞い込み、腰掛けていた鳥居から離れる。ふんわりと石畳に降り立った罪子の足元に影はない。およそ、この世の物質とはかかわりのない存在、それが罪子だ。
風が吹いて、木々がざわめく。欠けた月の光は、か弱くも優しく神社に降り注いでいる。その中で、どこへ向かうともつかない槌を打つ乾いた音だけが、虚しく響いていた。